2021 Fiscal Year Annual Research Report
平安期から鎌倉期にかけての書写活動―御子左家の書写工房を中心に―
Project/Area Number |
20J20526
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
阿部 彩乃 関西大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 御子左家 / 筆者分類 / 俊成監督書写本 / 中御門大納言殿集 / 藤原俊成 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究者は、俊成監督書写本のうち伝西行筆私家集を取り上げ、そのうちの『中御門大納言殿集』の筆者分類を行った。先行研究の筆跡分類において、2通りの筆者分類がされており筆者分類の特定に揺れが生じている。研究者は筆者分類において、客観的であり、筆者の個性が出る指標として、以下の指標を挙げる。 ①墨継ぎの癖:「墨継ぎの癖」の観点とは、筆者の「墨継ぎ」の仕方に着目し、墨継ぎにおいてどのような性格を持っているかを筆者分類の指標にしたものである。筆跡は似通ったものが書けたとしても、墨をどの程度かすれさせてから墨継ぎをするのかは、より書写者の個性が出ると考えられる。『中御門大納言集』の和歌140首を取り上げ、一首の中で句の切れ目を意識して墨継ぎをしているかどうかに関して分析する。和歌のどの句の切れ目において墨継ぎをしているか、また句の切れ目に関係なく、句の途中でも墨継ぎをしているのかを分析する。 ②筆の掠れ方:使用した筆によって筆者を分類しようとするものである。例えば、『中御門大納言殿集』では、楮紙、斐紙ともに使用されている。楮紙と斐紙の材質の違いにより、文字にかすれ方の違いが見られることはあるが、同じ材質の料紙であっても、使用された筆の毛質等の違いによってその線質や掠れ方に違いが見られる。同集の、同じ材質の料紙において、文字の掠れの有無が明らかな場合、使用する筆を変更していると考えられる。これは筆者の個性ではなく筆の変更だが、「墨継ぎの癖」の分類と合わせて分析することで、筆者が交代した箇所を明らかにすることができる。 この結果、『中御門大納言殿集』の筆者はa筆、b筆、c筆の三筆に分類でき、その分類結果は先行研究の一方の筆跡分類のものと一致した。つまり、この『墨継ぎの癖』と『筆の掠れ』という観点での筆者分類は、客観的で有効性のある結果を提示できることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの蔓延により、実地調査等に制限はあったものの、図書館の閉鎖や研究室の閉鎖も徐々に解除され、現在手元にある資料を用いて研究を遂行することができた。また、成果として『中御門大納言集』において具体的に指標を検証し、その有効性を明らかにした(『国文学』 106号・2022年3月)。この成果を踏まえると他の和歌集への応用が可能となり、鎌倉初期の写本制作状況を明らかにする新たな手法を見出しつつある。また、実地調査に関しても、林原美術館の悉皆調査等に積極的に参加し、解題の形でまとめ、着実な研究の成果が認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
俊成監督書写本のうち『中御門大納言殿集』と同一の筆跡が見られる私家集は『中務集』『小大君集』『三位中将公衡卿詠』『山家心中集』の四集である。これら四集は『中御門大納言殿集』のように、楮紙、斐紙が交用されていないものもあり、さらに筆者分類の判断基準の精査が必要である。 筆跡分類の特徴と合わせて考察することで一集での筆者分類にとどまらず、他集とのつながりを明らかにし、俊成監督書写本全体の筆者の整理を目指したい。
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