2020 Fiscal Year Annual Research Report
Reading under the Propaganda State: Media History of the Intellectuals and the Masses in Modern China
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20J20573
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
比護 遥 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 読書 / 中国 / 政治文化 / メディア史 / 大衆社会 / 宣伝 / カルチュラル・スタディーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
主に以下の3つの課題について、学会発表ないし論文執筆を行った。 ①1930年代から1940年代にかけての読書の大衆化と政治化についての研究:戦間期の上海における消費的な文脈からの読書の大衆化が、総力戦体制の要求としての政治化と結びついたことを論じた修士論文の前半に当たる内容は、6月に日本マス・コミュニケーション学会で報告し、7月に「消費する読者への政治的期待:1930年代中国の読書雑誌を手掛かりに」として『マス・コミュニケーション研究』第98号に投稿、査読修正を経て採録が決定した。また、上述した読書の大衆化を側面的に裏付けるために、データベース「民国時期図書数拠庫」をもとに出版統計の復元作業を行った成果も、7月に京大人文研の共同研究班で報告した。 ②中華人民共和国成立後の読書と政治文化についての研究: 読書を政治宣伝と結びつける発想が、中華人民共和国の成立後にいかに存続していったかを、『人民日報』等の言説分析から明らかにした成果は、5月に京大人文研の共同研究班で報告し、8月に『京都大学大学院教育学研究科紀要』第67号に投稿、査読修正を経て採録が決定した。 ③1980年代から現在にいたるまでの読書文化を中華圏の越境現象として位置付ける研究:読書と政治の関係性が実体的に表出する空間としての書店に注目して、中国大陸と香港と台湾における同時性と摩擦に着目した論文"Reading across the Strait: Cultural Politics of the Two Bookstores in Greater China"を執筆した。この論文は、英文学術誌に投稿して、現在は査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
中国における中華民国期から現在に至るまでの政治と読書の関係性に着目した研究を積極的に進め、順調に成果を上げることができた。読書の大衆化が進むとともに、総力戦体制のもとでの政治動員の必要性が高まった1930年代を研究の起点として、政治的な読書への期待が中華人民共和国の成立後にまで受け継がれていくことを実証的に分析した。その結果、出版市場の中で良書を選び取る読者の主体性への期待が、政治的な主体性への期待と結びついたことが解明できた。さらに、文化大革命が終わり、改革開放政策の進展とともに、現在では政治的道具としての読書の役割が弱まっているものの、ソフトパワー向上のための読書行為の拡大という国家の意図が、暗黙の検閲を前提としつつ資本の論理と結びついているという展開を、中華圏の脱国境的な比較分析の中で論証した。これらの成果はいずれも、書籍というメディアの特性を市場と政治権力の関係の中で新たにとらえなおすと同時に、中国史の時期的区分を超えたメディア文化の連続性を示すものであり、メディア研究にも中国史研究にもインパクトをもつ貢献である。 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、当初予定していた中国での現地調査や復旦大学への交換留学を行うことができなくなり、研究の遂行に一定の困難が生じた。しかし、各種データベースの公開範囲が拡大されたことや、文献の取り寄せを行ったことで、一部計画の変更はあるものの、予定以上のペースで研究を進めることができた。それらの成果は、学会及び研究会における3件の口頭発表、『現代中国研究』『マス・コミュニケーション研究』『京都大学大学院教育学研究科紀要』への3本の査読論文の掲載、及び1本の英語論文の投稿(査読中)に表れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度はまず国内学会での報告と論文投稿に注力したため、国際的な成果発信の機会は十分に作れなかったが、研究の性格からして日本以外からの視点を取り入れて研究内容をさらに深めていくことは不可欠である。残念ながら新型コロナウイルス感染拡大の影響により海外出張はできなくなり、もともと予定していた復旦大学への留学も困難になったが、幸いなことにオンラインを通じた報告の機会は多くあるため、それを積極的に活用していく。具体的には、すでにInternational Communication of Chinese Culture誌に投稿した論文"Reading across the strait: cultural politics of the two bookstores in Greater China"の査読に対応するほか、華中科技大学が主催するワークショップ「媒介考古学的知識譜系与本土化路径(メディア考古学の知識の系譜とローカリゼーション)」(2021年5月21日-23日)や華東師範大学が主催する「中国当代史研究」の日中共同研究ワークショップへの参加を予定している。このほか、国際的な感染状況に改善がみられるならば、北京の国家図書館、上海図書館、南京の第二歴史档案館、台湾の国立台湾図書館などでの調査も行いたい。 また、2020年度までの個別研究の積み重ねにより、博士論文の骨子となる材料は揃ってきたため、全体の問題提起に関わる部分の追加や個別研究の補足調査をしつつ、2021年度中に具体的に組み立てていく段階に着手したい。
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