2021 Fiscal Year Annual Research Report
Thioacid-Based Strategy for the Glycoprotein Synthesis
Project/Area Number |
20J20649
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
野村 幸汰 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 糖鎖 / 糖タンパク質 / 天然物 / 全合成 / チオアシッド / アミド結合 / ペプチド / タンパク質化学合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ウイルス感染や癌細胞転移に関わる重要な創薬ターゲットである糖タンパク質の迅速な精密合成法の確立を目的とし、最初に有用な反応Diacyl Disulfide Coupling(DDC)の開発を行った。本反応はα-アミノチオアシッドとペプチドチオアシッドを化学選択的に縮合させ、アミド結合を形成させる反応である。DDCでは、温和な酸化によるジアシルジスルフィド中間体の形成、及び続くアシル基転移反応により位置選択的にアミド結合を形成する。さらに既存のライゲーション方法であるThioacid Capture Ligation(TCL)をβ位にメルカプト基を導入したバリン誘導体に応用することで、糖鎖を自在に挿入するように糖タンパク質を合成することが出来る「化学的糖鎖挿入法」の開発を達成した。
糖タンパク質の合成において糖鎖挿入法を用いることで、免疫細胞の遊走性を誘起するサイトカインの一種、CCモチーフケモカインリガンド1(CCL1)及び、すい臓がん組織において分泌されるセリンプロテアーゼの阻害剤であるセリンプロテアーゼインヒビターカザルタイプ13(SPINK13)のα2,6-シアリル複合型糖鎖グリコシル化体の全合成を達成した。いずれの合成も従来の合成法では10-20工程以上を要し、糖鎖に対する収率は数%~1%未満であるのに対し、本合成法では10~20%の収率を達成した。続いて、大腸菌発現を用いたペプチド鎖の大量合成を用いて、造血細胞増殖活性を有するインターロイキン3(IL3)の半合成を達成した。
最終的に、得られた糖鎖付加型糖タンパク質、及び糖鎖を有していない糖タンパク質それぞれをin vitroでのバイオアッセイに用いることで、糖鎖構造が免疫性サイトカインや膵臓や肝臓におけるがん細胞の転移においてどのような働きを担っているのか、解析することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初今年度に予定していた課題を含め、さらに大阪大学医学研究科三善研究室との共同研究を遂行した。
まずは昨年度開発したDDCにおける基質依存性を検証することで、本反応が立体的にかさ高い側鎖を有するペプチド鎖へ使用可能であることを解明した。実際に糖タンパク質合成へ応用するために、α2,6-シアリル複合型Serine protease inhibitor Kazal type 13(SPINK13)の合成を行った。本合成では糖鎖を5員環プロリル骨格、及びバリン骨格の間に挿入する必要があり、従来の縮合法では合成することが困難である。そこで、初めにDDCを用いて糖鎖アスパラギンチオアシッドとプロリルチオアシッドを縮合し、得られた糖ペプチドチオアシッドに対してβメルカプトバリンをN末端に有するペプチドをTCLを利用して縮合することで、目的のSPINK13骨格を2回の縮合によって得ることに成功した。脱硫化反応、及び脱保護を行いRedox条件で段階的にフォールディングを行うことで、目的のSPINK13の合成を達成した。
得られた糖鎖付加型SPINK13及び糖鎖を有していないSPINK13を化学プローブとして用いて、共同研究先でがん細胞の浸潤アッセイをはじめとした、各種in vitroバイオアッセイを行った。結果糖鎖を有したSPINK13においてがんの浸潤を抑制する可能性がることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、CC Chemokine ligand 1(CCL1)、Interleukin 3(IL3)及びSerine protease inhibitor Kazal type 13など複雑な糖タンパク質の短工程迅速合成を、新規に開発した化学的糖鎖挿入法を用いて達成した。今後は本合成法をより広範に用いることのできる合成法とするために、糖鎖を導入する際に用いるTCL反応を現在達成しているシステイン、アラニン、バリン以外のβメルカプトアミノ酸誘導体にも応用する予定である。
さらに、現在α2,6-シアリル複合型糖鎖のみをタンパク質へ導入しているが、今後は現在新たに合成したO結合型糖鎖をタンパク質へ導入し、N結合型糖タンパク質以外のサイトカイン類の合成を行う予定である。現在Interlukin 2(IL2)の部分合成を達成している。最終的に自由自在に糖鎖をタンパク質へ導入することで、より高い活性をもつ次世代型バイオ医薬品の創出を行いたいと考えている。この点では、最近の我々の抗がん活性を有するSPINK13の合成は、その最初の一歩であると言える。
またチオアシッドを基盤とした縮合反応をDDC以外にも多数デザインしており、現在条件検討中である。今後のタンパク質化学合成を飛躍的に加速させるものになると考えている。
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