2021 Fiscal Year Annual Research Report
電気伝導特性とSERSの同時計測による単分子化学反応の解明
Project/Area Number |
20J20661
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
小林 柊司 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 単分子接合 / 表面・界面 / 分光計測 / 表面増強ラマン散乱 / 電気伝導度計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、単分子接合の表面増強ラマン散乱(SERS)および電気伝導特性の同時計測を活用し、単一分子の化学反応の計測を行うことを目標としている。まず、昨年度に引き続きスピロピラン分子の異性化反応について詳細に検討した。スピロピラン分子を架橋した単分子接合において接合状態を保持しながらSERS計測を行ったところ、電気伝導度とSERSスペクトルがレーザー照射中に変化した。そこで、SERSスペクトルに対して主成分分析を適用しスペクトル変化の要因を解析した。結果、第3主成分の得点は電気伝導度に依存した挙動を示し、対応する主成分負荷にはスピロピランの振動に由来するピークが現れた。したがって、第3主成分がスピロピラン分子の異性化に由来することが示唆され、単分子接合における異性化反応の検出に成功した。 次に、電気化学的な反応を計測するためのシステムの開発を行った。溶液中で単分子接合上での電気化学反応の計測を行うために、計測用の基板に施す絶縁処理方法を検討した。その結果、電気化学電流に由来したノイズを減少させることができ、電気化学電位の制御下における単分子接合の計測が可能になった。 続いて、電気化学電位の制御下における計測に先立ち、単分子状態での分子の挙動を確認するため、α-テルチオフェンを架橋した単分子接合についてSERSと電気伝導特性の計測を行った。実験の結果、α-テルチオフェンを架橋した単分子接合は幅広い電気伝導度を示すとともに、電気伝導度の値が高いほど炭素-炭素結合の伸縮振動のエネルギーは低くなる傾向が示された。第一原理計算により単分子接合中におけるラマンスペクトルを算出したところ、電極とチオフェン間の吸着位置の変化が波数変化を引き起こすことが示唆された。そして、相互作用部位の違いが振動エネルギーの違いをもたらすことが分かり、電気伝導度に対応した吸着構造を決定することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の現在までの進捗状況はおおむね順調である。本研究は、表面増強ラマン散乱(SERS)と電気伝導特性の同時計測に基づき、単分子接合上での化学反応をその場で観測することを目標としている。まず、本年度は光異性化反応の検出に成功した。昨年度に見出していたフォトクロミック分子の異性化反応について、SERSスペクトルの主成分分析を用いて得られた結果を詳細に検討することで、分子の異性化反応を検出するとともに、反応に由来する単分子接合の電気伝導度の変化を明らかにすることに成功した。そして本研究で得られた成果を原著論文として報告することができた。 次に、電気化学反応を計測するシステムの開発に成功した。これにより、酸化還元反応に代表される電気化学的な反応を計測することが可能になり、今後はより幅広く単分子接合上での化学反応に関する研究を実施できることが期待される。併せて、電気化学反応の計測を見据え、α-テルチオフェン分子を架橋した単分子接合の構造の特定を行った。酸化還元反応を引き起こさない条件でSERSと電流-電圧特性の計測を行い、SERSスペクトルの形状と電気伝導度との関係から、当該分子を架橋した単分子接合における架橋構造を決定することに成功した。得られた成果は、国内学会において報告することができた。 以上、本研究においては、単分子接合上での光化学反応の検出に成功したうえ、電気化学計測のシステムの開発にも成功した。さらに、酸化還元反応の計測に向けた単分子接合に関する知見の収集も着実に進行している。したがって、本研究で目標としていた単分子接合上での化学反応のその場での観測を達成できつつある。以上より、本研究は現在までおおむね順調に進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は昨年度構築した電気化学計測のシステムを用い、まず、単分子の状態が変化する反応の検出を行う。本研究では、水溶液中においてチオフェン誘導体の電気化学的な酸化還元反応を計測する。電気化学電位を掃引しながらSERSと電気伝導特性の同時計測を行うことにより、SERSと電気伝導特性の変化が生じるかを観測する。SERSスペクトルにおけるピークの出現や消滅が発生すれば分子の酸化還元反応が引き起こされたことを実証でき、ピークのシフト等からは分子の架橋構造を明らかにできる。また、SERSスペクトルの強度の変動や、強度の励起波長依存性および単分子接合の電気伝導特性からは、反応の前後における単分子接合の電子構造の変化についての知見を得られる。以上の手法により、単分子接合上での酸化還元反応を観察し、その過程と機構を明らかにする。 続いて、単分子の間の化学結合を生成する反応の検出を行う。本研究では、電気化学電位の変調のプロセスを変更することでチオフェン誘導体の重合反応について計測する。あわせて、様々な分子長の誘導体を用意し、化学反応が引き起こされない条件における単分子計測を行う。電気化学電位の制御下における単分子計測の結果と、電気化学電位を変調させない条件下における計測結果を比較検討し、重合反応の過程について明らかにする。さらに、電気化学電位や金属電極間のナノギャップの大きさなどの条件を変化させることで、化学反応の進行度の制御に挑戦する。 並行して、同様に電気化学的な反応を計測できる分子種の探索を行う。様々な分子種に対して同様の計測を行い、SERSと電気伝導特性の電気化学電位に依存した変化が生じるかを検証する。変化が見られた分子について、反応の機構を詳細に検討する。チオフェン誘導体における計測の結果と比較することなどにより、単分子接合上における電気化学的な反応が持つ性質についての知見を得る。
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Research Products
(3 results)