2021 Fiscal Year Annual Research Report
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20J20663
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
林 宏樹 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | スピントロニクス / スピン流 / 軌道流 / スピントルク / 軌道トルク / スピントルク強磁性共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに行っていた常磁性体/強磁性体二層膜におけるスピントルク生成効率の評価方法を用いて、自然酸化銅におけるスピントルク生成効率の測定を行った。自然酸化銅は組成によって反強磁性体(CuO)と反磁性(Cu2O)の二種類の磁気特性を持つことが知られており、酸化銅と銅の界面で反転対称性が破れている。そこで巨大な軌道ラッシュバ界面が形成されていることが理論的に知られている。この系において電流を印加すると非平衡軌道角運動量が誘起し、軌道流が生成される。この系に強磁性体を接合して、スピントルク強磁性共鳴法を測定することで軌道流によって誘起する軌道トルクを評価した。実験結果は銅を酸化させることによって系統的に信号の大きさが変化することが確認された。 軌道流生成について酸化させることが必須でない可能性が生じたため、他の単体金属において軌道流生成と輸送現象の特徴を調べた。選定した材料は以下の条件を設けた。スピンホール角と軌道ホール角の符号が逆符号である。加えて、スピンホール角が極端に大きいまたは小さい材料である。その候補して、チタンとタングステンを選定した。前者のスピンホール角が小さく、後者が大きい。この材料を銅と同様にトルク生成効率の定量を行った。軌道トルクは強磁性体に依存することがチタンで確認することができ、強磁性体中でスピン流より長距離輸送可能であることが実験的に示した。これは理論的に報告されている軌道流の物理的描像と整合する。またタングステンでは構造を変えることで、スピン流と軌道流の生成メカニズムのクロスオーバを観測した。この成果に関する論文を現在投稿中である(arXiv:2202.13896(2022))。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述にある通り、常磁性体/強磁性体金属系における軌道流によって誘起する軌道トルク生成に関する研究を行った。これによって、銅(Cu)、チタン(Ti)、タングステン(W)において軌道流が生成されていることを実験的に明らかにした。軌道流の特徴が従来から知られているスピン流と異なる特徴を有していることが判明した。 【試料作成】高周波スパッタリング法を用いて、常磁性体/強磁性体(ニッケルとパーマロイ)の二層膜を成膜し、フォトリソグラフィー法とアルゴンイオンミリングを用いて微細加工を行い、デバイスを作成した。強磁性体と常磁性体の膜厚が異なるサンプルを複数用意した。 【測定】スピントルク強磁性共鳴法(STFMR)を用いて、強磁性体中に誘起する軌道トルクを直流電圧として測定した。STFMR信号の形状から計算されるスピントルク効率を異方性磁気抵抗比、電流値、飽和磁化を別途測定して定量した。 【結果・考察】全ての常磁性体(Cu,Ti,W)に対して、強磁性体としてニッケルを接合した時にスピン流で説明できないトルク効率の大きさと符号を示した。これは先行研究で軌道トルクはニッケルで最も効率よく生成されている点と整合が取れる。また、Tiの膜厚を固定してニッケルの膜厚を変化せると20nmまで効率が上昇することが判明した。強磁性体中の横スピンの拡散長1nmに比べて非常に長い。これは強磁性体中の軌道応答に対するホットスポットに起因することから説明可能である。さらに、Wにおいては膜厚でスピン流と軌道流の支配メカニズムのクロスオーバを確認された。スピンホール効果と軌道ホール効果は単一材料で共存していることを明らかにした。TiとWにおける軌道拡散長は50nm程度あり、両者のスピン拡散長よりはるかに長いことが実験で明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
軌道流生成現象の一つとして軌道ホール効果に関して精力的に研究を遂行し、チタンとタングステンにおいて軌道流生成の観測に成功した。しかし、銅における軌道流生成に関してまだ理解できていない点が存在する。今後の研究施策は銅に関する軌道流生成に関してさらなる実験と考察を行っていく。具体的には今までは恒温恒湿槽で酸化することを試みていたが、理論上は銅の表面に酸素が吸着することによって軌道ラッシュバ効果が発現するので、銅の表面に異なる絶縁層を積層する方法を行う。これによって、酸化過程で強磁性体の劣化防止が期待できる。銅の酸化防止膜に酸化シリコンを使用し、銅の表面に酸素が吸着することによって軌道ラッシュバ効果が発現させる。一方、参照サンプルとして窒化シリコンを酸化防止膜と使用してトルク効率が変化する確認する。 チタンやタングステンにおいて軌道流の生成が確立したので、軌道流の性質を追及していく。軌道ホール効果はスピンホール効果と現象の類似性が高いことから、スピン流の性質に対応する軌道流の性質を調べていく。これまでの研究では電流からの変換効率(軌道ホール角)や拡散長を調べることによって軌道流の性質を明らかにしてきた。今後は、軌道流からの逆変換現象(逆軌道ホール効果)や磁気抵抗効果などのスピン流に関連する現象を軌道流で新たに実験を行なっていく。他にも、今回の実験で軌道流が強磁性体中に注入されて誘起する軌道トルクは強磁性体中のスピン-軌道相関の大きさに関連して大きさが変化することが実験的に判明した。スピン-軌道相関が大きい希土類金属を強磁性体として用いることで巨大な軌道トルクが期待される。
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Research Products
(4 results)