2020 Fiscal Year Annual Research Report
ストレス受容体としてのタンパク質凝集体ALISによる新たな細胞死誘導機構の解明
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20J20688
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 碧 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 凝集体 / p62 / PARP-1 / パータナトス / 神経変性疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞のストレス応答機構の一つとしてALIS(aggresome-like induced structures)と呼ばれるタンパク質凝集体を形成する機構がある。ALISは、異常タンパク質を一時的に隔離しておくコンパートメントであると考えられてきた。一方、細胞内に凝集した異常タンパク質は、アルツハイマー病などの神経変性疾患に共通する病理所見であり、その細胞毒性が神経細胞死の原因と考えられる。しかし、タンパク質凝集体の形成機構や、タンパク質凝集体による細胞死誘導機構には不明な点が多く残されている。本研究では、申請者が独自に見出した、ALIS形成依存的に細胞死(パータナトス)を誘導する薬剤CTXを用いて、ALISによる細胞死誘導機構の解析を目的として研究を遂行した。 パータナトスは、核局在タンパク質PARP-1依存的に誘導されるプログラム細胞死として定義され、PARP-1の活性化依存的に細胞死誘導因子AIFが核へと移行することで細胞死が誘導される。本年度の研究では、PARP-1およびALIS形成に必要なp62、ALIS構成因子であるK48型ポリユビキチンが、CTX依存的に核内のヒストンリッチな画分に局在することを明らかにした。また、p62の欠損およびALIS形成の抑制により、PARP-1の局在変化および活性化が抑制されたことから、p62-ALIS依存的にPARP-1がヒストンリッチな画分に移行して活性化することが示唆された。さらに、既存のパータナトス誘導剤MNNGはPARP-1を強力に活性化し、ATP枯渇による細胞死を誘導した一方で、CTXはATPの低下は起こさず、AIF依存的な細胞死を誘導した。以上の結果から、p62-ALISが、MNNG刺激時とは異なるPARP-1の活性化状態を作り出し、AIF依存的な細胞死を優先的に誘導する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、計画通りにCTX誘導性パータナトスにおけるp62-ALISの機能解明を行った。当初は、CTXによるp62依存的なALIS形成機構の解析を中心に進める予定であったが、これまで用いていた細胞分画法の改良により、パータナトス誘導時に特異的な、PARP-1の局在変化およびPARP-1の活性化依存的に産生されるポリADPリボース(PAR)の蓄積を捉えることに成功したため、これらに対するp62-ALISの機能の解析を優先して行った。その結果、CTX処置により、p62-ALIS依存的にPARP-1がヒストンリッチな画分に局在変化することがわかり、この局在変化によりPARP-1の活性化が誘導される可能性が示唆された。また、既存のパータナトス誘導剤MNNGが誘導する細胞死と、申請者が独自に見出したパータナトス誘導剤CTXが誘導する細胞死の比較解析を行った結果、p62-ALIS依存的に活性化したPARP-1は、ATP低下は起こさずに、AIF依存的なパータナトスを誘導する可能性が示唆された。 これらの結果は、これまで着目されてこなかった、凝集体によるパータナトス誘導機構が存在することを示唆しており、本機構の解明により、神経変性疾患における、凝集体による神経細胞死誘導機構を説明するための分子基盤となることが期待される。また、PARP-1は、活性化の強度によってDNA修復を誘導する場合と細胞死を誘導する場合があると考えられているが、PARP-1活性化制御機構には未解明な部分が多く残されている。本研究により、核内に形成される凝集体がPARP-1の活性化を制御している可能性が強く示唆されており、PARP-1の新規活性化制御機構の解明という点でも、極めて大きな成果であると考えている。よって、当該年度に遂行した、p62-ALISによるパータナトス誘導機構の解析は順調に進展したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究によって、パータナトス誘導時、p62-ALIS依存的にPARP-1がヒストンリッチな画分に局在を変化させることで活性化することが判明した。このことから、PARP-1とp62-ALISが複合体を形成している可能性や近接化している可能性が示唆された。また、CTXはATPの枯渇を起こさずに、AIF依存的なパータナトスを優先的に誘導したことから、p62-ALIS依存的なPARP-1の活性化は、MNNGによるPARP-1の活性化状態と異なっている可能性がある。しかし、実際にPARP-1とp62-ALISの複合体が形成されているかどうかや、p62-ALISによってどのようにPARP-1の活性化状態が制御されているかは、未だ明らかにできていない。次年度においては、まず、PARP-1とp62-ALISの複合体形成の有無を明らかにするために、免疫沈降法やproximity ligation assayなどの新たな解析系の構築を行う。これにより、両者の複合体形成について解析するとともに、パータナトス誘導における機能解明を進める。また、未知のALIS構成分子がPARP-1の活性化やパータナトス誘導に必要である可能性も想定されるため、免疫沈降法によりALISを精製後、質量分析法を用いてALIS構成分子を解析し、同定できた分子について機能解析を行う。さらに、PARP-1やp62自身のポリADPリボシル化、ユビキチン化、リン酸化、酸化修飾など何らかの翻訳後修飾が、PARP-1の活性化やパータナトス誘導に重要である可能性も想定されるため、このような翻訳後修飾の有無を解析し、明らかになった修飾に関して修飾部位を同定する。最終的には、修飾を受けない変異体を作製し、パータナトス誘導における機能の解明を行う。以上の結果を統合し、p62-ALISによるパータナトス誘導機構のモデル構築を目指す。
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Research Products
(3 results)