2021 Fiscal Year Annual Research Report
ストレス受容体としてのタンパク質凝集体ALISによる新たな細胞死誘導機構の解明
Project/Area Number |
20J20688
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 碧 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
Keywords | 凝集体 / p62 / PARP-1 / パータナトス / 神経変性疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞のストレス応答機構の一つとしてALIS(aggresome-like induced structures)と呼ばれるタンパク質凝集体を形成する機構がある。ALISは、異常タンパク質を一時的に隔離しておくコンパートメントであると考えられてきた。一方、細胞内に凝集した異常タンパク質は、アルツハイマー病などの神経変性疾患に共通する病理所見であり、その細胞毒性が神経細胞死の原因と考えられる。しかし、タンパク質凝集体の形成機構や、タンパク質凝集体による細胞死誘導機構には不明な点が多く残されている。本研究では、申請者が独自に見出した、ALIS形成依存的に細胞死(パータナトス)を誘導する薬剤CTXを用いて、ALISによる細胞死誘導機構の解析を目的として研究を遂行した。 パータナトスは、核局在タンパク質PARP-1によって産生されるポリADPリボース(PAR)が細胞質へと放出され、ミトコンドリアに局在する細胞死誘導因子AIFの核移行を促進することにより誘導される。今年度は、①PARP-1活性化の解析と、②免疫蛍光染色法によるパータナトス関連分子の局在変化の解析を行った。PARP-1活性化の解析では、CTX処置依存的に細胞質にPARが蓄積することを明らかにした。また、ALISは細胞質におけるPARの蓄積には関与しないことがわかった。このことから、ALISはPARの細胞質放出の下流においてAIFの核移行を促進する可能性が示唆された。そこで、免疫染色法によってAIFおよび他のミトコンドリアタンパク質の局在変化過程の詳細な解析を試みた。その結果、CTX処置により、ミトコンドリアそのものが細胞内の特定の場所に集積することが判明した。さらに、ミトコンドリア集積に対するALISの寄与を調べた結果、ALISはミトコンドリアを集積させることによって、パータナトス誘導を促進する可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、昨年度に引き続きCTX誘導性パータナトスにおけるALISの機能解明を行った。前年度までの解析から、CTXは従来のパータナトス誘導剤のような過剰なPARの蓄積を誘導しないことがわかっていた。PARは、核内においてPARP-1依存的に産生され、状況依存的に様々な細胞応答を誘導するが、細胞死の誘導には細胞質に放出されたPARが機能すると考えられている。今年度は、細胞質におけるPARの蓄積を評価する実験系を新たに構築し、CTX処置依存的に細胞質にPARが蓄積することを明らかにした。また、一連のパータナトス誘導シグナルの中でも上流のイベントであるPARの細胞質放出にALISは関与しないことがわかった。このことから、ALISはPARの細胞質放出の下流で、ミトコンドリア局在タンパク質AIFの核移行を促進することが示唆された。 ALISがAIFの核移行メカニズムを制御する可能性が想定されたことから、AIF核移行に関する解析を優先的に行った。免疫染色法によってAIFの局在変化過程の詳細な解析を試みた結果、CTX処置により、細胞内の特定の場所にAIFが集積することが判明した。また、AIFだけでなく他のミトコンドリア局在タンパク質も同様に集積することがわかった。このことから、興味深いことに、パータナトス誘導時にミトコンドリアそのものが集積することが明らかになった。さらに、ミトコンドリアの集積は、PARP-1およびALISに依存して誘導されることもわかった。また、細胞質に放出されたPARはALISの蓄積を促進する可能性も示唆された。以上の結果から、PARの細胞質放出の下流で、ALISがミトコンドリアを集積させることにより、パータナトス誘導を促進する可能性が想定された。従って、当該年度に遂行した、ALISによるパータナトス誘導機構の解析は順調に進展したと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究から、ALISはPARの細胞質放出には影響を与えずに、その下流においてAIFの核移行を促進することが示唆された。また、AIFの局在変化過程の詳細な解析から、ALIS依存的にミトコンドリアそのものが集積することが明らかになった。 細胞質におけるPARの蓄積の評価では、ALISが関与しないことが明らかになった一方で、昨年度の解析では、ALIS依存的にPARP-1がヒストンリッチな画分に局在変化しPAR蓄積が誘導されることがわかっている。PARはその局在や結合パートナーによって、異なる機能を発揮することから、細胞質およびヒストンリッチな画分におけるPARの蓄積の意義とパータナトス誘導への関与について、継続的に解析していく必要がある。 ミトコンドリア局在タンパク質AIFの核移行については、アポトーシス誘導時には、ミトコンドリア外膜透過性亢進(MOMP)依存的にAIFが細胞質に放出され、核へと移行することが知られている。一方で、今年度の解析から、パータナトス誘導時には、ミトコンドリアそのものが細胞内の特定の場所に集積することが明らかになった。このことから、パータナトス誘導時には、MOMPに依存せず、AIFが核に移行する可能性が示唆された。次年度においては、MOMP不全細胞におけるミトコンドリア局在変化の解析やアポトーシス誘導時のミトコンドリア局在との比較により、ミトコンドリアが集積することとパータナトスとの関連を明らかにし、パータナトス誘導時にミトコンドリアが集積する意義の解明を目指す。また、ミトコンドリアは、微小管依存的に細胞内を輸送されることから、ミトコンドリア集積に対する微小管の関与も調べ、ALISがどのようにミトコンドリアの集積を誘導しているかについて解明を行う。最終的には、以上の結果を統合し、ALISによるパータナトス誘導機構のモデル構築を目指す。
|
Research Products
(2 results)