2020 Fiscal Year Annual Research Report
Multilevel society in feral horse
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20J20702
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
前田 玉青 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 重層社会 / ドローン / 動物行動 / 社会ネットワーク / 集団行動 / ウマ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究により、ウマが重層社会をもつことが初めて明確に示された。重層社会とは、安定なユニット群(最小単位の群れ)が集まってより高次の集団をつくる社会である。これまでの研究では重層社会を定量的に分析する方法が確立されておらず、各階層の定義も曖昧であることが多いという問題があった。そこで我々はドローンを使い、個体間距離を使って重層社会であるかを確かめた。すると、お互い数メートルの距離を保って、固まって動く組み合わせが23あることが確かめられた。この緊密な関係にあるのがユニット群と言える。さらに、ユニット群はおよそ40mの間隔を保ちながら、近寄りすぎず、かつ離れすぎないように行動を共にする、すなわち重層社会であることが示唆された。本研究で確立した手法は、重層社会の種を超えた共通の定義づけや、種間・個体群間比較を進める上で非常に有用であり、重要な成果といえる。 さらに、ヒト同士あくびが伝染するように、睡眠が集団内を伝播することが示唆された。ウマは昼間でも30-90分おきに休息・採餌を繰り返しながら行動する。そのサイクルがユニット群内はもちろん、ユニット群を超えて同期するが、ユニット群内の同期の方がユニット群間の同期より強いことがわかった。今までの同期・集団行動の研究では、個体は個体はごく近くにいる少数の個体しか認識していないという前提に立ったモデルが主流である。しかし、今回の結果から、各ユニット群は平均約28 Body lengthも離れているにもかかわらず、行動の同期が起こることが示唆された。重層社会を作る動物においては、いままで考えられいた動物の認識範囲よりかなり広い視野をもつことを前提としたモデル作りが必要である可能性がある。重層社会の集団行動的な側面はほとんど先行研究がなかったので、本研究のようにモデルの事例を示したことは、今後この分野の発展にとって非常に重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は新型コロナの影響により、ポルトガルに渡航できず、新たなデータを得ることは叶わなかった。一方で、過去のデータを用いた解析・論文執筆については順調に進んだ。ドローンによる重層社会の検出、定義についての論文が2021年1月Scientific Reportsに掲載された。また、野生化ウマの睡眠同期に関する論文を書き上げ、現在PCI network scienceというプレサブミッションシステムにて査読中である。この研究により、重層社会を持つウマはユニット群を超えて睡眠が同期することが示された。今までの同期・集団行動の研究では、個体はごく近くにいる少数の個体しか認識していないという前提に立ったモデルが主流であった。しかし、今回の結果から、各ユニット群は平均で40m(およそ28 Body length)も離れているにもかかわらず、行動の同期が起こることが示唆された。重層社会を作る動物においては、いままで考えられいた動物の認識の範囲よりかなり広い視野をもつことを前提としたモデル作りが必要である可能性がある。 また、ポルトガルのCIBIOと共同でウマ用GPSの開発に取り組んだ。従来の首輪型GPSは頭から抜けてしまうことから長期間の追跡は困難であるため、尻尾に装着する小型のGPSを開発した。 国際学会で1回、国内学会で 2回発表を行い、うち2回で発表賞を受賞した。他、研究のアウトリーチ活動も積極的に行なった。Scientific Reportsにて公表された論文について新聞社からの取材に応じた。また、Journal of Ecologyの論文紹介動画を作成したり、環境保護・動物福祉を推進する学生団体であるConserv’Sessionの一員としてイベントを企画したりするなど、自身の研究にとどまらない活動を行なっている。
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Strategy for Future Research Activity |
①GPSによる追跡 進捗状況でも述べたようにCIBIOと共同でウマ用のGPSを開発したため、これを本格的に装着する予定である。これにより、ドローンでは追跡できなかったウマの冬季や夜間の位置情報を得ることができるようになると期待される。ウマのユニット群は春から夏にかけて集合し、冬は分散して過ごすと考えられているが、実際のところ完全に分散するのか、それともある程度の関係性を保つのかはよくわかっていない。季節による群れ間関係の変化を追うことで、重層社会の機能について考察していきたい。ただし、コロナの状況によっては渡航できず、予定が遅れる可能性がある。 ②2017ー2019年のデータ比較 2017年から2019年にかけて、繁殖期における位置関係のデータを取り続けているが、その三年間でユニット群構成や個体数が大きく変化した。特に2019年はバチェラー群がいなくなるということが起こった。もし、ウマの重層社会がバチェラー群の効率的排除という機能により進化したのであれば、バチェラー群の不在はユニット群の集結性にかなり大きな影響を与えるはずである。また、2018年には仲良しなユニット群のペアが見られたが、その理由はわからなかった。群れ構成が変わる中で、ユニット群の親密性を決める要素は何か、遺伝子解析も含めて考察していきたい。
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Research Products
(9 results)