2020 Fiscal Year Annual Research Report
貫入岩周辺の高精度熱履歴復元および地殻岩石における粒成長メカニズムの解明
Project/Area Number |
20J20834
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山岡 健 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 接触変成帯 / 貫入岩 / 熱モデリング / 炭質物 / マグマ溜まり |
Outline of Annual Research Achievements |
ラマン分光分析による炭質物の結晶化度、およびEPMA分析による石英中のチタン濃度に基づいた地質温度計の適用によって、愛知県本宮山地域の広域および接触変成岩の分布する領域について詳細な熱構造を制約することに成功した。 炭質物の結晶化度の解析過程において、当該地域の変成泥岩には韓半島由来と考えられる砕屑性炭質物が多量に含まれることが明らかとなり、炭質物の結晶化度を用いることで後背地に露出する変成岩の変成温度に関する情報を抽出できる可能性が示された。また、この砕屑性炭質物の影響を系統的に除去しつつ、岩石の経験した最高温度を推定する手法を考案した。
得られた接触変成帯の熱構造を説明可能な貫入岩の熱モデルを構築するため、熱力学計算により推定された貫入岩の晶出履歴と、先行研究により制約済みの重力異常データに基づく貫入岩形状を組み込んだ三次元熱モデリングを行なった。その結果、まず本地域の貫入岩は従来の閉鎖形の熱モデルでは説明できない接触変成帯を形成していることが明らかになった。次に、この問題を解決するため、新たに開放系の貫入岩熱モデルを構築し、接触変成帯の熱構造との比較を行なった。その結果、新たなモデルでは接触変成帯の熱構造の再現に成功し、また当該貫入岩が長期間の活動的なマグマ履歴をもつ可能性が高く、噴火ポテンシャルの高いマグマ溜まりを形成していたことが明らかとなった。この結果は、地上に露出した貫入岩と接触変成岩の熱的関係性を詳細に解析することで、これまで推定が基本的に困難だった過去のマグマ溜まりにおける噴火履歴の有無およびマグマ流量に関する情報を入手できる可能性があることを意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究当初の初年度における達成目標は、岩石の粒成長メカニズムの解明へ向けて、本宮山地域の接触変成帯において地質温度計を用いた熱構造の制約および熱モデリングを用いた熱履歴の制約を行なうことであった。 変成岩地域における炭質物の結晶化度を用いた広範囲かつ高解像度のサンプリングに基づく熱構造解析では熱構造を明らかにする過程で砕屑性炭質物を多量に含む変成岩において系統的にそれらの影響を除去し、変成岩の最高到達温度を推定する手法を考案した。この成果は学会および研究会にて公表され、また論文投稿の準備が整いつつある。
貫入岩の熱モデリングからは、従来の同手法では考えられてこなかった開放系のマグマ溜まりと周囲の熱構造の関係をモデル化し、接触変成帯からマグマ系の未知パラメータの制約を試みており、火山学分野への貢献が期待される結果が得られている。この成果については今後学会発表を予定しており、また論文執筆を進めいているところである。
一方、熱モデリングの結果は、粒成長モデリングで使用可能な解像度で接触変成作用の時間スケールの情報を得るために別の独立な手法を用いる必要があることを示唆しており、新たな課題が明らかになってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究によって明らかになった本宮山地域における接触変成帯の熱構造を再現可能な貫入岩の熱モデリングの探索を継続する。熱モデルからは貫入岩形成時のマグマ供給率と貫入時の背景温度を制約し、テクトニクスおよびマグマ供給系における重要性について議論する。
接触変成帯から、高空間解像度で変成堆積岩を採取し、サンプリング試料からSEM-EBSD分析によって岩石中の鉱物比と粒径に関する情報を得る。それらを貫入境界からの距離にしたがって整理し、接触変成作用の熱モデリング結果を組み合わせて静的な粒成長との関係を調べ、粒成長の律速機構について定量的に明らかにする。特に、実験と天然の観察によって大きなギャップがある石英の拡散係数の制約を目指す。また、国内および国際学会での成果発表とともに、現在執筆中の論文2編を専門雑誌に投稿し、3編目の投稿準備を行なう予定である。
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