2020 Fiscal Year Annual Research Report
Research on the Basic Properties of Chaotic Loewner Evolution and Its Application to Neuronal Morphology
Project/Area Number |
20J20867
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
柴崎 雄介 日本大学, 総合基礎科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | Loewner evolution / 決定論的カオス / 形態形成 / 非平衡統計力学 / 神経変性疾患 / 不可逆性 / Isingモデル / nonequilibrium entropy |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究課題における理論及び実験的アプローチにおいて大きな進展があった。項目ごとに分け、以下にその概要を記述することにする。1.一次元カオス写像によって駆動されるレヴナー発展の性質を確率論的レヴナー発展(SLE)との関連から導き出した。このモデルは写像の混合性の弱さに依存し局所的な凝集が生まれ、一種のマルチフラクタル構造を持つということが分かった。本モデルは、SLEに対する可能な一般化の一つとして捉えることができ、今後、生物系の形態形成や乱流のモデルなど幅広い現象への応用が期待される。2. 臨界温度以下における2次元イジング模型における相分離線が、カオス的レヴナー発展によって記述されうることを数値計算により示した。この結果はSLEに対する決定論的パースペクティブを示し、SLEの一般化や拡張に対するアプローチとして有効であると思われる。3. 確率論的・カオス的レヴナー発展におけるエントロピー生成と流出を同定し、非平衡統計力学的観点からレヴナー発展を捉えなおした。この研究ではSLE曲線の軌道に対するギブス・エントロピーを定義し、その時間微分の振る舞いを調べることでその性質を調べた。結果として、SLE曲線は外部に対するエントロピー流が持続する開放系であることが示唆された。その一方で、駆動関数は熱力学的には孤立系であると解釈することができることから、SLEが非平衡系と平衡系を一対一に対応付ける情報論的フレームワークを提供していることが明らかになった。4. 健常者及びアルツハイマー型認知症患者から作製されたヒトiPS細胞由来神経前駆細胞における神経突起形態をレヴナー発展の枠組みにおいて解析し、アミロイドβ及びリン酸化タウの顕著な発現に先んずる自己相関性の違いを見出した。これらは、神経突起の変性の新しい定量化方法と神経変性疾患が内在的にもつであろう物理学的な意味を提供する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、カオティックなレヴナー発展は、よく知られたシュラム・レヴナー発展(SLE)とは別の範疇に属すものであると想定していたが、今年度行ったイジング模型に対する数値解析によって、離散的なレヴナー発展がカオス力学系的メカニズムを内在的に含むということが明らかになった。したがって現段階では、SLEはカオティックなレヴナー発展の一種であると解釈することが出来るのではないかと予想している。いずれにせよ、この数学的枠組みを実際の生物系における現象に応用するためには、SLEを非平衡統計力学的見地から解釈するという試みは避けて通れない。そのような動機付けから、今年度の研究において、SLE曲線のエントロピーの振る舞いを確率熱力学的に調べた結果、「非平衡―平衡状態」対応という興味深い結果を見出した。この事実が、非平衡統計力学の一般論としても意味を成すものになるよう今後発展させていく。神経突起形態の解析に関しては、当初の予定通り遂行し、一定の成果を得た。以上のように、期待以上の成果は主に理論の研究において得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方針であるが、基本的には本年度に得られたそれぞれのテーマに関する結果を発展させていく形で遂行していく。まず理論面ではSLEにおける「非平衡―平衡状態」対応から、2次元の軌道を記述する系において応用可能な熱力学的な関係を導き出していく。またその延長として、カオティックなレヴナー発展で記述可能な形態学的に意味のある現象(生物形態形成や乱流など)を理論的に得られた物理量を用いて解析していく。また、実験面では神経突起伸長及びその変性の様子を動的に観察し、SLEのフレームワークに当てはめて物理学的に解釈していく。個別のテーマを進めていくことにはなるが、なるべくそれらを統一的に解釈できるような原理・原則というものを仮定してそれぞれの研究に取り組むことにする。
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