2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J20952
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松本 啓岐 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 磁気弾性効果 / 磁気異方性 / 反強磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、格子ひずみと電子スピンの相互作用である磁気弾性結合に着目し、ひずみによって反強磁性体薄膜の磁性を制御を目指すものである。本年度は、二軸引っ張り応力印加という新たな手法を発案し、これによる磁性制御に取り組んだ。 フレキシブル基板上へ磁性体薄膜を製膜し、基板に一軸引っ張り応力を加えることで%オーダーの巨大ひずみを印加できる。これにより、強磁性体の磁化方向を面内で可逆的に操作できることが報告されてきた。これに対し、本年度の研究では、試料を面内で二軸的に引っ張るという新たな手法を用いて、垂直磁気異方性の巨大制御に成功した。 実験では、Co薄膜をPd薄膜で挟んだ構造を十字型のフレキシブル基板上へ作製し、十字の長手方向を引っ張るように応力を加えることで、基板上の構造へひずみを印加した。面直方向へ磁場を掃引しながら異常ホール抵抗値の測定を行い、垂直磁気異方性を評価した。その結果、ひずみを加える前には面内にあった磁化容易軸を、1.5%の二軸引っ張りひずみ印加により面直方向へとスイッチさせることに成功した。%オーダーの巨大なひずみを印加したにも関わらず、スイッチングが可逆的に生じることも明らかになった。なお、最大2%の一軸引っ張りひずみを印加しても磁化容易軸の面内面直スイッチングには至らなかった。 垂直磁気異方性が引っ張りひずみに対して線形に増加することも確認した。これらの結果から、面内へ二軸的に引っ張ることでポアソン効果により生じる面直圧縮ひずみが、逆磁歪効果を介して垂直磁気異方性を増加させることが分かった。 また、格子ひずみの波である表面弾性波と電子スピン波の結合を利用し、人工反強磁性構造において表面弾性波の巨大な非相反現象を観測した。磁化が反強磁性結合している場合に、表面弾性波の透過率が伝搬方向によって大きく変化するのに対し、強磁性結合ではこの現象が生じないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二軸引っ張りひずみによる可逆的な垂直磁気異方性制御は、従来にはない手法であり、かつ異方性の変化量が非常に大きいため、応力検知デバイスなどへの応用が期待される。また、面直方向へ%オーダーのひずみを印加できるという特徴から、これまでは制御が難しかった磁性、例えば反強磁性体の磁気異方性や強磁性・反強磁性ヘテロ接合界面の交換結合などの制御へと展開できる可能性があり、大変意義深いものである。 人工反強磁性構造における表面弾性波の非相反現象については、単層構造の先行研究と比較すると一桁大きいオーダーで生じており、学術的・応用両方の観点から今後もさらに研究を進めていく意義があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
二軸引っ張りひずみを利用した反強磁性体薄膜の磁性制御に取り組みたい。強磁性・反強磁性ヘテロ接合界面に生じる交換結合について、ひずみを印加することで結合が変化するかを輸送測定を介して評価する。変化が見られた場合には、磁性層の膜厚を変化させたり、接合界面に薄い非磁性層を挿入したりすることで異なる構造を作製し、同様の測定を行って結果を比較することで、ひずみによる変化の起源を探索する予定である。
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