2020 Fiscal Year Annual Research Report
Unemployment in the Welfare State: A Comparative Analysis of the Origins of Unemployment Benefits in France, Britain and Germany, 1880-1958
Project/Area Number |
20J21007
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西田 尚輝 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 失業保険 / 経路依存性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会政策の経路依存性と長期的分岐という観点から、西洋諸国における失業保険の歴史的形成の一側面を明らかにするものである。イギリスは1911年、ドイツは第1次世界大戦後に国家的失業保険を創設したが、フランスの国家的失業保険は1958年まで遅れ、しかも団体協約によって管理・運営された。エスピン-アンデルセンのコーポラティズム型福祉国家は後二者を区別しておらず、また、既存研究は、フランスのこの「遅れ」を体系的に説明してこなかった。対して本研究は、体系的な事例間比較によって失業保険の変化・維持のメカニズムを理論化するとともに、それぞれの分枝過程に位置付けられたイギリス、フランス、ドイツの失業保険発展過程を精査することによってそのメカニズムを精緻化することを目標とする。 2020年度は、福祉導入・拡大に際しての費用分担パターンの形成・分岐という観点から、戦間期のヨーロッパ諸国における失業保険発展の比較歴史分析を行った。そして、社会政策制度の経路依存性が失業保険費用の分担にかんする最良の説明であると主張した。すなわち、20世紀初頭に福祉プログラムがどのように構成されたか(市民権ベースか、職業ベースか)と、失業金庫の組織が労働組合の手にのみ委ねられていたか否かという2つの問題は、保険の負担を労働者、雇用者、公的機関の間で分担するパターンを決定した重要な要因だったのである。この成果は、「福祉国家拡大の費用を誰が拠出するのか:戦間期ヨーロッパの失業保険の比較歴史分析」(社会学評論)として発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大によって研究活動に大幅な制限を強いられたものの、オンラインの口頭発表を2回行い、雑誌論文を1本発表した。雑誌論文は、既存理論が十分に説明することができなかった戦間期ヨーロッパの失業保険の発展経路の違いを、比較歴史分析という方法によって体系的に分析したものであり、理論的にも方法論的にもインパクトがあるものである。 新型コロナウイルス感染症によって延期を余儀なくされた在外研究は、2021年度中のスタートを目指し十分な準備を進めている。パリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学の現代世界社会史センターに滞在し、基礎知識を体系的に学ぶとともに、フランスの失業対策に関する基礎資料の収集と読解に取り組む予定である。以上の理由から、おおむね順調に進展していると言える
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、(新型コロナウイルスの感染拡大によって2020年度は延期を余儀なくされた)フランスのパリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学での在外研究を開始し、労働史のセミナーや研究会に参加するとともに、フランス国立文書館、国立図書館、さらにはC.G.Tや外務省のアーカイブで資料収集・読解に取り組む。 研究発表については、日本社会学会大会にて、定性的社会科学における歴史と因果関係に関する発表を行い、これを論文化して『社会学評論』に投稿する。さらに、失業保険発展の決定要因や国による違いを、質的比較分析(QCA)に基づく集合論的アプローチによって分析したものをワーキングペーパーに仕上げ、海外ジャーナルに投稿する。
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