2021 Fiscal Year Annual Research Report
Unemployment in the Welfare State: A Comparative Analysis of the Origins of Unemployment Benefits in France, Britain and Germany, 1880-1958
Project/Area Number |
20J21007
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西田 尚輝 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 失業保険 / 経路依存性 / QCA / 権力資源論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会政策の経路依存性と長期的分岐という観点から、西洋諸国における失業保険の歴史的形成の一側面を明らかにするものである。 失業保険の決定要因や国による違いは、福祉国家の比較・歴史分析において重要なテーマだった。しかし、失業保険の発展原因に関する学術的な証拠は、時に矛盾や断絶がある。2021年度は、質的比較分析(QCA)に基づく集合論的アプローチによって、権力資源理論と資本主義の多様性との間の矛盾した証拠を解決することを試みた。 SSRNに掲載されたワーキングペーパーでは、QCAアプローチにより、失業給付の拡充につながる労働組合と企業の相互作用を明らかにした。その結果、労働組合が失業基金を設立するためには、技術集約型企業が必要条件であったことが明らかになった。また、高い組合密度が失業保険の拡大に十分であると主張する権力資源論アプローチに反して、技能集約的で失業リスクの低い産業の小規模労働組合が保険という選択肢を追求した。その上、雇用保障は労働者の定期的な保険料支払いによってその財政的持続性を支えるため、失業保険基金を拡大するための不可欠な推進力であった。当ワーキングペーパーは、異なる産業における2つのアクターの組み合わせを探ることで、先行研究が提供するマクロなクロスナショナル・エビデンスの下に隠された「組合主義の多様性」を示すものである。 当ワーキングペーパーは現在、ヨーロッパの政治学系ジャーナルで査読中であり、2022年度中のアクセプトを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、講演・口頭発表を2回行い、論文を1本、ワーキングペーパーを1本発表した。ワーキングペーパーは英語論文であり、現在、ヨーロッパの政治学系ジャーナルで査読中である。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって若干の延期を余儀なくされたものの、2021年には、パリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学の現代世界社会史センターにて在外研究をスタートした。労働史・社会史のゼミに出て基礎知識を体系的に学ぶとともに、フランス国立文書館、国立図書館にてフランスの失業対策に関する基礎資料の収集と読解に取り取り組んだ。以上の理由から、おおむね順調に進展していると言える
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度までは、国際比較の観点から、戦間期フランスの失業保険形成過程の特質を分析し、研究成果を発表してきた。2022年度は、戦間期のトランスナショナルな労働力移動の観点から、フランスの失業保険制度を捉え直すことを試みる。先行研究によって、戦間期ヨーロッパにおいて、失業保険が外国人に寛大であるほど、移民政策も開放的だったことが知られている。なぜ当時の失業保険には国境を越えた連帯があったのか。2022年度は、1900-1930年代に欧州最大の移民受入国だったフランスと、移民送出国ベルギー、イタリアの関係に注目し、失業保険の分野での国際協調はどのように進んだのかを明らかにする。 2021年に引き続いて、フランスのパリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学での在外研究を行い、労働史のセミナーや研究会に参加するとともに、フランス国立文書館、国立図書館、さらにはC.G.Tや外務省のアーカイブで資料収集・読解に取り組む。研究発表については、前半期は昨年度、日本社会学会大会で行った、定性的社会科学における歴史と因果関係に関する発表を論文化し、『社会学評論』に投稿する。後半期は、戦間期の国際労働力移動がフランスの失業保険に与えた影響を分析したものたものを論文化し、International Review of Social HistoryかHistory of European Ideasに投稿することを目指す。
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