2021 Fiscal Year Annual Research Report
物理的相互作用情報を用いたタンパク質の新規進化系統解析と進化モデルの構築
Project/Area Number |
20J21144
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山本 楠 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
Keywords | 遺伝子機能 / タンパク質間相互作用 / タンパク質進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではタンパク質の配列の違いがタンパク質の物理機能や相互作用に及ぼす影響を実験的に検証するとともに相同タンパク質の分子ネットワークの違いと置換機能の関連性を解析し、各タンパク質がどのように変異を蓄積して機能を変容したかを明らかにする。さらに、配列の近しい多くの相同遺伝子とそのキメラを用いて、出芽酵母の複合体サブユニットを置換した際の機能並びに分子ネットワークにおける影響を調べる。これらのデータを用いて、進化過程の変異が機能に及ぼす影響を明らかにし、モデルを構築する。 解析対象として、プロテアソーム複合体のβサブユニットに着目している。先行研究では、出芽酵母のプロテアソーム複合体の各サブユニットを他種の相同遺伝子によって置換した結果、サブユニットによって機能補完のされやすさが異なる他、必ずしも近縁種の相同遺伝子が機能補完しやすいとは限らないことが示された(Kachroo et al., Science, 2015)。さらに、隣り合うサブユニットを同時に置換することで単一では置換できないヒトのサブユニットの置換が可能になる例があることから、機能補完にはタンパク質間相互作用等の影響があることが示唆されている。 2021年度は、まずタンパク質間相互作用を同定する新規手法BFG-PCA法の開発結果をまとめ、論文をして発表した。その後、機能補完アッセイに用いるためのタンパク質置換アッセイに必要な酵母株の作成と系の妥当性を評価した。さらに、大規模スクリーニングの試料作製を行った。これらを基に、現在15種(計125遺伝子)の機能置換アッセイとタンパク質間相互作用スクリーニングを進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い共同研究先への渡航が1年程度遅れた関係で当初計画から遅れをとっているものの下記の進捗をあげている。 【1 新規手法BFG-PCA法の追加解析・論文化 】タンパク質間相互作用を高速に同定する新規手法BFG-PCA法の開発を行った。この手法は、出芽酵母以外のタンパク質の相互作用の有無を検証できるため、本研究でのタンパク質間相互作用の同定に使用する。同手法に関する論文を2021年7月に投稿し、査読対応の追加実験並びに解析を行なったのち、同12月に再投稿した。同論文は2022年1月にNucleic Acids Research誌に受理、掲載された。 【2 置換アッセイ系の構築 】これまでに、本研究対象のタンパク質複合体をコードする各遺伝子について、テトラサイクリン誘導的に遺伝子の発現を下方制御する発現抑制株の作製、並びに相同タンパク質を導入するプラスミドの構築を行った。これらを用いて、各種プラスミドを導入し、置換アッセイを行った。その結果、ゲノム上の遺伝子を発現抑制する株において、遺伝子を発現するプラスミドを導入した場合にのみ、発現抑制下で細胞の生育が認められた。このことから、構築したプラスミドを用いた置換アッセイ系が機能補完の検証に妥当であることが確認された。 【3 βサブユニット相同タンパク質を用いた機能補完スクリーニング及びBFG-PCA用試料作製 】大規模スクリーニング用のプラスミドを得るために、プール状にクローニングを行うアプローチを採用した。化学合成された遺伝子断片の混合サンプルをpDONRベクターに導入したのち、置換アッセイとBFG-PCAに用いる計6つのプラスミドにサブクローニングした。調整された各サンプルに対し、品質管理として次世代シーケンサによる出現頻度解析を行ったところ、95%以上のアッセイ用プラスミドの構築が確認された。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は下記の3つの実験を行い、より詳細なタンパク質複合体の進化モデル構築に必要なデータを得る。 【1 キメラタンパク質の置換アッセイ 】各相同タンパク質において機能補完に影響を及ぼす領域やアミノ酸残基を同定するために、出芽酵母と他種由来のサブユニット間のキメラタンパク質を用いて置換アッセイを行う。キメラタンパク質は各サブユニットにおいて比較的保存されていないC・N末端領域と保存度が高いコアの領域を組合せ、タンパク質の一部領域のみが異種、あるいは出芽酵母由来になるよう設計する。 【2 組合せによる置換アッセイ】プロテアソーム複合体の進化の過程において、全体構造を維持しながら複数のサブユニットに変異が蓄積し、異種の相同タンパク質間での違いが生まれていると考えられる。そこで、7つあるサブユニットのうち2つを同時に異種の相同タンパク質に置換するアッセイを行う。これにより、プロテアソーム複合体内のサブユニット間の共進化の傾向と、共進化が各相同遺伝子の機能補完へ及ぼす影響を明らかにする。 【3 タンパク質間相互作用の同定並びに相同タンパク質間の比較解析 】ここまで機能補完を検証した異種の相同タンパク質とキメラタンパク質について、タンパク質間相互作用を網羅的に同定し、配列の違いが相互作用に及ぼす影響を明らかにする。また、出芽酵母のサブユニットが持つ相互作用との類似度を計算したのち、置換アッセイの結果との関連を分析する。これにより進化過程におけるサブユニットの機能の変遷をモデル化する。
|
Remarks |
2022年度は研究代表者が共同研究先(Landry Laboratory)に滞在して研究活動を行なっている。
|
Research Products
(3 results)