2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J21152
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉永 光貴 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 文禄・慶長の役 / 壬辰戦争 / 古文書学 / 小西行長 / 外交文書 / 豊臣政権 / 日明関係 / 日朝関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の目標としては、①文禄・慶長の役期間とその前後の日明・日朝交渉について、前年度に検討を進めた加藤清正以外の大名の動向にも留意をしながら分析を加え、②当該期に取り交わされた外交文書に関する古文書学的検討を掲げていた。それぞれに関連する分析を進め、研究報告を行った。 ①については、豊臣政権の構成員(大老・奉行・大名)の授受文書の収集や、外国史料での登場記事の収集を進め、分析を加えた。また、②については、当該期発給文書の収集・分析を行うとともに、明・朝鮮の古文書学に関する先行研究に学びながら、各国内発給文書や文例集などから事例を収集した。 特に、紀州徳川家に伝来した慶長の役末期に発給された三通の明将文書に注目し、東京大学史料編纂所が所蔵する台紙付写真を閲覧して分析を加えた。この史料群は『熊本縣史料』に翻刻された既知の史料群ではあるが、従来はほとんど注目されてこなかった。写真の閲覧によって、翻刻では不明だった料紙や文字遣いの情報など古文書学的な知見を多く得られた。また、関連する史料の収集・分析を通じて、従来不明とされてきた当該期の日明交渉の内容を復元し、大名が明将から獲得した「人質」とされた人々は明将からは日本軍を宣諭する役割を期待されていたこと、日本軍と明軍の間で被虜人の解放・倭城の明け渡しなどを交換条件に明が朝鮮を交渉のテーブルにつけるという講和条件で合意していたことを確認した。 その知見を元に9月に日本古文書学会大会において「紀州徳川家伝来文書からみた慶長の役講和交渉」と題した報告を行った。この報告では、先述の三通の文書の分析に焦点をあて、慶長の役講和交渉は最晩年の秀吉の意向を反映したものであったことと、従来不明であった講和条件を明らかにし、この間の講和交渉は中断したものの徳川家康による戦後交渉の前提となるものである点を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も、新型コロナウィルスの流行とその社会的影響により、大学図書館等の研究施設の利用に一定の制限が課されることになった。特に、在住地域では緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に指定された期間が長期化したため、社会情勢を鑑みて史料調査等が実施しにくい状況にあった。したがって本年度の研究も、一定の制約下で進めることとなった。 本年度は、東京大学史料編纂所図書室を中心に史料調査を行った。特に、紀州徳川家に伝来した文書群の台紙付き写真を閲覧し、従来の翻刻では得られなかった古文書学的知見を多く得た。その成果にもとづき、日本古文書学会大会において口頭報告を行った。また、刈谷市歴史博物館、名古屋市博物館、蓬左文庫、佐賀県立名護屋城博物館、福岡市立図書館等で関連する展示の熟覧、マイクロフィルム等の閲覧を行った。 研究成果の発信という点では、本年度は1本の口頭報告を実施した。また、口頭報告と質疑応答での応答を前提としつつ、研究成果の文章化を進めている。本年度と昨年度口頭報告を実施した内容に関する合計3本の論文を執筆中であり、査読付き雑誌論文としての投稿を目指している。 前述のように、本年度も新型コロナウィルスによる一定の研究上の制約はあったものの、その中でも一定の研究成果を達成し、発信することができた。ゆえに本年度の研究課題の進捗状況については、おおむね順調に進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性として、次の3つの研究目標をあげる。 1つ目は、これまでの研究成果の文章化を進める。本年度は研究成果の口頭報告やそれに基づく論文の執筆を進めたが、なお投稿には至っておらず、発信に関してはやや課題が残った。口頭報告の質疑応答で重要な指摘を多く受けており、それらを反映しながら論文投稿や新たな口頭報告を行うことで、研究成果の積極的な発信を行う。また、この間に調査した史料には未刊のものも少なくはないため、学界への史料紹介を行うことも検討したい。 2つ目は、慶長の役戦後の国交回復交渉に関する分析を進める。本年度に紀州徳川家伝来文書の分析を通じて慶長の役最末期の日明交渉の内容を解明したことで、この期間の交渉が戦後交渉に与えた影響の大きさについて見通しを得た。そこで、本年度の研究で得た慶長の役期間の交渉の知見を前提として、戦後交渉についても分析を進め、豊臣政権・徳川家康政権の対外交渉方針や交渉の窓口となった各大名の役割を明らかにし、中近世移行期の対外交渉に関する一貫した見通しを得ることを目指したい。 3つ目は、戦争自体の分析を進めることである。本年度までは、主に戦争中の対外交渉について分析を進めたため、軍事行動としての戦争自体の分析は不十分であった。慶長の役戦後には戦争の論功行賞が行われて大名間対立の激化を招いたことは先行研究で指摘されており、豊臣政権・徳川家康政権や大名の役割を理解するためには戦争自体への検討が不可欠である。そこで、特に慶長の役期間の軍制や戦争過程の分析を進めることで、統一政権や大名の動向を復元し、政治史と対外関係史を統一的に理解することを目指したい。
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