2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J21196
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 徳仁 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | シェリング / フランス革命 / 美と政治 / 神話 / 自由 / 19世紀社会思想史 / アナーキズム / 歴史哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまで政治・社会思想史の文脈で語られることの少なかったF・W・J・シェリングの思想を当時の政治革命や社会状況のもとで再考することを目的としている。その遂行にあたって、採用第1年度では以下の3点の成果を得た。 1点目としては、修士論文のテーマであったシェリングのフランス革命経験についての分析を、より多角的に検討できたことが挙げられる。特にシェリングの「国家(Staat)」という語の複雑さを踏まえることで、後に登場するバクーニンなどのアナーキズム思想との関連でシェリングの政治思想を論じるための手がかりとすることができた。これについては、唯物論研究協会全国大会にて口頭発表を行った。 2点目は、中期シェリングが1820年代頃に行った『エアランゲン講義』をそれ以前との著作との関連で分析し、それを論文化できたことである。具体的には、このテクストの主要概念である「非体系性」と「自由」の意味合いに注目して行った。それによって、修士論文で取り扱った1810年頃までの思索(『自由論』や『シュトゥットガルト私講義』まで)との連続性を見て取ることができた。この論文は日本哲学会誌『哲学』72号に掲載される。 3点目は、シェリングの思想形成を、修士論文では扱うことのできなかった最初期(1790年前後や神学院時代)にまで遡って分析することができたことである。マギスター論文『悪の起源』や論文「神話について」、そしてハーンに対する追悼詩などを分析することで、最初期の彼にとってカントの歴史哲学とハーン(Philipp M. Hahn)の敬虔主義が果たした役割の大きさを評価することができた。この点については、目下論文を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シェリングの政治思想を俯瞰するという本研究の目的にとっては、何よりも彼の思想形成を追うことが肝要である。修士論文ではそれを1795年以降のテクストに求めたが、本年度はそこからさらに遡って、1790年前後の神学院時代にまで分析を拡げることができた。これによって、啓蒙と伝統、知識人と民衆、理性と信仰のあいだの調和を可能にするであろう「新しい神話」構想を彼が描くにあたった背景がより明らかになった。 こうした彼の構想はほんの一時期にとどまるわけではなく、(1)後年の1848年革命期の思索や、(2)シェリング以降の思想家たち(バクーニンやE・ブロッホ)にも受け継がれていることが、研究を進めていくなかでより鮮明になった。それを綿密に追っていくことで、社会思想史上でシェリングが果たした役割を評価することができるようになるであろうし、今後の課題である。 なお初年度は、目下のパンデミックによって国際学会での発表が2つとも中止となり、シェリングの後期思想について研究者たちと意見交換する貴重な機会が途絶えてしまったが、それらを後年度に回して、むしろ最初期のテクストを分析することに専念したことが、結果的にはこれからの研究展開に明確な視座を与えることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針は主に3つ挙げられる。 まず第1に、初年度に行った最初期のテクスト分析(研究実績の概要で挙げた第3の点に相当)を論文化し、学会誌に投稿することである。これによって、シェリングの前半生、生涯にわたる根本モチーフについては十分に分析を深めることができる。 第2に、後期シェリングの政治洞察、なかでも1848年の3月革命についての洞察を検討することが挙げられる。シェリングは3月革命の直接的な経験者で、それに関して詳細な日記を遺している。本研究では、最晩年の『神話の哲学』で展開された政治論に与えた3月革命の影響を調べる予定である。これについても、学会発表を経て論文にする。 第3の課題は、シェリングの思想が後年の思想家に与えた影響を見て取ることである。なかでも、E・ブロッホはハーバーマスによって「マルクス主義的シェリング」と呼ばれたこともあって、シェリングからの政治思想上の影響が指摘されてきたが、それをほんの一部のテクストによってではなく、両者のテクストに沿って綿密に検討されたことは研究史上もまだほとんど無い。この点については、2021年度の社会思想史学会にて発表する予定であり、目下エントリー中である。
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