2021 Fiscal Year Annual Research Report
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20J21196
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 徳仁 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | シェリング / フランス革命 / 美と政治 / 神話 / 自由 / 歴史哲学 / 哲学と宗教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまで政治・社会思想史の文脈で語られることの少なかったF・W・J・シェリングの思想を当時の政治革命や社会状況のもとで再考することを目的としている。その遂行にあたって、採用第2年度では以下の3点の成果を得た。 第一に、前年度からの継続課題として、1790年代初頭における初期シェリングの思想形成を分析した。前年度が敬虔主義からの影響について考察を深めたのに対し、本年度ではテュービンゲン神学院での正統主義の動向とそれに対する彼の批判にも目を向けた。それによって、『批判主義と独断主義についての哲学書簡』をより多角的な視点から読解できるようになった。 第二に、先行研究の体系的な整理を行った。なかでも20世紀後半のドイツ語圏における解釈史を分析し整理したものを学会にて成果報告した。そこでの報告内容は査読論文として学会誌に掲載されることが決まっている。さらにその内容は、英語圏の動向も踏まえて拡張した上で、目下準備中の博士論文の「序論」の一部となる予定である。 第三に、1840年代末のシェリングが展開した政治論について検討し、成果報告した。48年革命に対して否定的な評価を下した老シェリングは、これまでの研究で「保守化した」とみなされていたが、それに対して学会報告では、シェリングのテクスト内容に沿って、そこでの国家批判や社会主義的な傾向にも注目した。なかでも『神話の哲学』で登場する「社会Gesellschaft」という語の特別なニュアンスについて考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上でも記したように、昨年度から引き続き、最初期シェリングの思想形成史をより深めることができた。これによって、フランス革命、敬虔主義、神学院における新正統主義の動向といった様々な角度から1790年代のシェリングをとりまく言説状況を再構成することができた。これはそのまま、目下準備中の博士論文の「第一部」となる予定である。 また、シェリングにかんする先行研究と解釈史の整理が大幅に進んだことが、本年度の大きな成果である。これもまた、目下準備中の博士論文の「序論」となる予定である。 昨年度から続くパンデミックの影響で、予定されていた国際学会がまたしても中止となり、海外研究者との交流の機会が失われたものの、国内の学会での発表報告と論文投稿は順調に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は主に3つの点から研究を実施する。 まず第一に、後期シェリング、なかでも『啓示の哲学』における政治思想の読解である。昨今の研究で、『啓示の哲学』を政治神学の文脈に位置づける研究が現われている(Saitya Dasなど)。しかし、先行者たちは『啓示の哲学』の序盤や結論部を論じるばかりで、肝心の中盤部における聖書読解についてはあまり触れていない。それらを分析したものを2022年7月の学会で発表報告する予定である。 第二に、1804年から1809年頃にかけてのシェリングにおける自由概念の展開を追う。そこでの展開には、エッシェンマイヤーやヤコービとの論争が反映されている。シェリングのテクスト自体とそれに関する論争のいずれにも目を向けることで、シェリングの政治論においては「精神と思考の自由」がいかなる役割を果たしているか素描する。これについても、学会にて成果報告をおこなう予定である。 第三に、前年度と以上で挙げた二つの成果を踏まえて、博士論文の準備をすすめる。そのために、定期的に所属研究室のゼミや学内の合同ゼミにて構想発表を何度か行う予定である。
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