2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J21205
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小池 太智 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | ケイ素0価化学種 / 単原子ケイ素転位反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題における目的化合物の一つとして設定していた単原子ケイ素錯体(シリロン)の合成に成功した。前駆体であるハロゲン化物に対して、配位子であるケイ素二価化学種(シリレン)共存下、ナトリウム粉末を作用させることで、目的の対称シリロンを合成、単離することに成功した。また、本シリロンの電子状態を客観的に評価するため、比較化合物となる非対称シリロンを同様の手法によって合成・単離した。これらの研究内容の一部は学会に発表済みであり、優秀学生講演賞を受賞している。 本シリロンは、興味深いことに溶液中では紫色を示したのに対し、固体中では黒緑色を示すことが分かった。その特異な物性変化の詳細について、実験的、計算化学的観点から調査した結果、本シリロンは、溶液中と固体中で大きく異なる構造を示し、それが物性や電子状態の大きな違いに寄与していることが示唆された。本結果は、低配位典型元素錯体の制御可能な互変異性化と捉えることができ、低配位典型元素化学種がスイッチ等の分子デバイスに応用できる可能性を示している。これまでに遷移金属スピンクロスオーバー錯体や有機ラジカルが、その分子デバイスとしての応用可能性から幅広く研究されてきたものの、低配位典型元素錯体を用いた類似の研究の報告例はない。 研究課題の一つであった、本シリロンを用いた単原子ケイ素転位反応について検討した。本シリロンは、高温で加熱することで、配位子であるシリレンが脱離することが確認できた。それを踏まえ、本シリロンを別のルイス塩基であるエタン-1,2-ジイミン共存下で加熱することで、中心の単原子ケイ素をエタン-1,2-ジイミンに転位させることに成功した。これは、単原子ケイ素錯体を用いた初めてのケイ素転位反応である。今後は本反応の基質適用範囲を拡大することで、その有用性を示していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の一つである単原子ケイ素錯体の合成と単離に成功し、その電子状態について比較対象化合物とともに、計算化学と実験化学双方の観点から深く議論することができた。また、本シリロンが溶液中と固体中で全く異なる構造、電子状態や物性を示し、それが相間移動によって可逆的に変換できる、といったこれまで報告されている低配位典型元素錯体には見られない特異な性質を発見した。本結果は、低配位典型元素錯体が潜在的な分子デバイスとしての応用可能性を秘めていることを示すものであり、本分野の研究価値を飛躍的に上昇させる一石となると期待している。 また、研究課題の一つである単原子ケイ素転位反応にも成功した。基質適用範囲は今後の課題ではあるものの、これまで成功例が報告されていなかった単原子ケイ素錯体のケイ素転位反応を成功させたことから、順調に研究が進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の一つである単原子ケイ素転位反応において、単原子ケイ素の発生と同時に生じる配位子が目的の反応を阻害している実験結果が出ている。この問題を解決するために、単原子ケイ素の発生条件を従来の加熱条件から変更できないかを模索する。具体的には、低温下における高輝度LED照射や粉末同士のすり潰しといった、副反応の抑制だけでなく、効率よくエネルギーを反応系に伝達する方法を模索する。その最適化条件をもとに、ケイ素転位反応の基質適用範囲拡大を図る。 単原子ケイ素錯体の電子的性質についての知見が得られため、類似の単原子炭素錯体、またその代替化合物の合成を目指す。合成手法に関しては、上述の単原子ケイ素錯体の合成手法に倣う。合成に成功した後、構造、物性や電子状態について実験的、計算化学的観点から調査する。
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Research Products
(4 results)