2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J21205
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小池 太智 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | ケイ素0価化学種 / 単原子ケイ素転位反応 / 分子スイッチ / 二重結合 / ホウ素 / 分極 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題の目的化合物の一つとして設定していた単原子ケイ素錯体(シリロン)の合成に成功した。本シリロンは溶液中と固体中で異なる構造と光学特性を示し、その二つの状態間で可逆的に変換できることを見出した。理論計算からこの分子スイッチは、配位子の嵩高さとアミノ基の電子的効果の絶妙なバランスによってもたらされている可能性が示唆された。以上の研究成果は、J. Am. Chem. Soc., 2021, 143, 14332-14341にて報告した。また、本シリロンを用いたケイ素転位反応の基質適用範囲について調査した。種々のエタン-1,2-ジイミンに対しては高選択的・高収率でケイ素転位反応が進行し、目的のジアミノシリレンが得られたものの、その他の基質に対しては目的のケイ素転位反応は進行しなかった。また、本シリロンとモノヒドロボラン、或いはモノハロボランとの反応を検討した結果、種々の高度にツイストしたケイ素―ケイ素二重結合化学種(1-アミノ-2-ボリルジシレン)に簡便に誘導できることを見出した。理論計算から、アミノ基とボリル基のプッシュプル効果によってケイ素―ケイ素二重結合が高度に分極することで、二重結合周りがツイストしやすくなっていることを明らかにした。また本ジシレンは、分子内1,3-ヒドリド・クロリド転位反応が可逆的に進行することを発見した。本転位反応は、これまでのジシレンでは見られなかったものであり、高度にツイスト・分極したジシレンならではの特徴といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の一つである単原子ケイ素錯体の合成、ケイ素転位反応、および分子スイッチに関する結果と考察を論文としてまとめることができた。単原子ケイ素転位反応の基質適用範囲の拡大は今後の課題ではあるものの、これまで成功例が報告されていなかった単原子ケイ素錯体のケイ素転位反応と分子スイッチ機能の発現に成功した。また、単原子ケイ素錯体とボランとの反応によって、簡便に高度にツイストしたプッシュプル型ケイ素―ケイ素二重結合化学種に誘導できることを見出した。このような化合物はこれまでに合成例が無かったことから、単原子ケイ素錯体が特異な構造や電子状態を有する含ケイ素不飽和化学種にアクセスするための有用な前駆体になることが分かった。これは当初の予定には無かったものの、単原子ケイ素錯体の研究価値を飛躍的に上昇させる結果であるため、研究全体としてはおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
単原子ケイ素錯体と種々のボランとの反応を検討することで、これまでに例のない置換パターンの含ケイ素不飽和化学種への誘導を目指す。具体的には、単原子ケイ素錯体とジハロボランとの反応によって、二つのハロゲンーホウ素結合に対する形式的メタセシス反応を検討し、非常に合成難易度が高いとされてきたケイ素―ホウ素二重結合化学種の簡便な合成手法の確立を目指す。既にこの戦略を用いることでケイ素―ホウ素二重結合化学種が合成できることを確認しているため、基質適用範囲を調査するとともに、合成したケイ素―ホウ素二重結合化学種の構造、反応性と電子状態を調査する。
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