2020 Fiscal Year Annual Research Report
Determination of tsunami overflow and reconstruction of inundation area using muddy tsunami deposits
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20J21239
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中西 諒 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 津波堆積物 / 北海道 / テフロクロノロジー / 古海水準復元 / 千島海溝 / 巨大地震 / 珪藻 |
Outline of Annual Research Achievements |
北海道沿岸において簡易掘削器具を用いた野外調査を行い,砂質津波堆積物の分布を明らかにした.これにより,泥質津波堆積物が分布すると考えられるエリアを特定し,詳細な分析に用いるサンプルを得た.肉眼では確認できない“泥質津波堆積物”を検出するため,各種の分析によりイベント発生当時と考えられる層準から弱いながらも砂質津波堆積物と共通した化学組成とCT値の異常を検出することに成功した. また泥質津波堆積物の認定と並行して,沿岸域の発達過程と津波堆積物の形成過程について調査分析を進めた.地質記録から古津波を明らかにする上で火山灰による編年は強力なツールであるため,これまでの野外調査で得た完新世の火山灰分布をデータジャーナルにて公表した.日高海岸南部浦河町において内陸へと分布する砂層は8層確認され,その特徴からいずれも津波によって運ばれた津波堆積物であると判断した.14C年代に基づくその堆積年代は5500-2200年前であり,発生間隔は約420年であった.古津波の浸水範囲を推定する上で重要な要素である海水準変動については採取した泥炭試料を用いて珪藻微化石分析,CNS分析等を行うことで明らかにした.これまで古海水準の報告がなかった日高海岸南部で完新世高頂期のタイミングおよび最大潮位高度を推定し,これが津波堆積物の形成に大きな影響を与えていたことを明らかにした.このように相対的海水準変動やこれに伴う地形発達に影響を受けた津波堆積物の形成や保存性は周辺地域でも確認され,今後詳細に解析を進める予定である.海進に伴う完新世のダイナミックな地形変化は津波の浸水範囲に大きく影響するため,地質記録から津波の規模を推定する場合に考慮すべき重要な要素である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度においては北海道における2度の現地調査を実施した.本調査は調査空白地であるため,津波堆積物の存在そのものが重要な情報となる.そのため泥質なイベント層準を識別するため,新たに発見した津波堆積物の詳細な調査・分析を実施した.その上で泥質津波堆積物の認定に向けた試料を新たに得た.これらの認定候補試料については高知コアセンターにおいてX線CTスキャンおよび,XRFコアスキャナー(ITRAX)を用いたX線像と化学組成プロファイルを得た. 歴史記録に残っていない時代の津波像を明らかにするためには,津波堆積物のみでなく,当時の地形や堆積環境についての情報を地質記録から得る必要がある.北海道浦河町(鵜苫)においては津波堆積物の報告に加えて,微化石・化学分析を組み合わせた分析によって古海水準を復元し,その影響を明らかにした.本内容は国際科学雑誌Quaternary Science Reviewsにて発表済みである. 本年度の計画では野外調査における試料採取,津波堆積物の各種分析,放射性炭素年代測定および泥質堆積物の化学・鉱物分析が主な実施項目であった.上記のように年次計画を概ね達成している.
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Strategy for Future Research Activity |
日高地域の浸水域を明らかにするため泥質津波堆積物の分布調査を実施予定である.また,予備調査において新規に津波堆積物候補が確認されたため,詳細な調査行う.引き続き津波堆積物の形成に大きな影響を与える海岸発達過程についても並行して珪藻化石や化学分析を用いて復元する. 泥質津波堆積物の候補層準について初年度得た化学組成データを基に走査型電子顕微鏡を用いた数十マイクロオーダーの詳細な化学・鉱物組成分析を実施する.供給源の特定が難しい鉱物については先行研究で報告のある周辺域の地層と比較し、岩体レベルでどこからもたらされたかを特定する.野外調査と詳細な分析を繰り返し,水平分布について明らかにする予定である. 地震の規模を推定する上で必要な数値シミュレ-ションに取り組み,地質情報を基にした古地形や海水準を用いてより現実に近い再現に臨む. 泥質津波堆積物の前提として,新たに発見された砂質津波堆積物についての分析・解釈をまとめ,国際学会での発表や国際誌への投稿を行う.
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