2020 Fiscal Year Annual Research Report
適切なベクターコントロールを目指した殺虫剤の生体・生態影響評価とその手法の確立
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20J21282
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
本平 航大 北海道大学, 大学院獣医学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 多世代曝露試験 / フィールド調査 / 毒性影響評価 / イメージング解析 / 血中メタボローム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は開発途上国を中心に環境汚染物質の蓄積を証明すると同時に殺虫剤DDTをモデル化合物に実験動物を用いた健康影響評価を実施する。フィールド研究と動物実験の結果を比較し、DDTの生体、生態影響を評価する手法の確立を目的としている。 DDTを散布しているアフリカ諸国からサンプリングした野生げっ歯類を解析し、散布環境における健康影響を評価した。DDT散布地域においてラットで強い性差が報告されている異物代謝酵素遺伝子の発現量にDDTが影響している可能性が示唆された。得られた血液を分析し、血中メタボロームを定量したところ、DDT、ないしその代謝物と相関のある因子が発見された。依然としてアフリカ諸国ではDDTが利用されているが、哺乳類への毒性影響は不明な点が多い。後述する実験動物を用いた試験と合わせ、本研究結果は散布地域での影響を説明する一助となると期待している。今回変動が確認できた遺伝子や血中因子は実験動物を用いたDDTの投与試験により、DDTとの関連性を証明していく予定である。 また多世代の動物実験によりDDT散布環境を再現し、遺伝子検査、病理学的検査、イメージング技術など複数の手法を用いて、DDT曝露による健康影響の評価を実施する。特に2020年度は餌を介した経口曝露により多世代の曝露試験における最初の2世代を実施し、次年度以降の研究に有益である多数のサンプルを回収、保存した。さらに今後の試験で利用を検討している血中メタボローム解析、コンピュータ断層撮影(CT)などの技術を導入し、その実験手法、解析手法、本研究における有用性を共同研究機関に赴き、申請者が検証した。こうした技術が殺虫剤の毒性影響評価に利用されることは非常に稀であるが、新しい技術を組み合わせることによる新たな毒性の報告、また同個体を用いた経時的なモニタリングの有用性を説明するうえで大きな意義があると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は南アフリカ共和国で行った2度のサンプリング活動によって採取した野生げっ歯類の分析を行った。上述の通り、DDTが散布地域においてラットで性差を持つ異物代謝酵素遺伝子の発現量に影響している可能性が確認でき、DDTとの関連性、メカニズムの調査のため追加検証を行った。2020年度内の公表は出来なかったが、2021年度にこれらの結果をまとめ学術誌にて公表できるだけの解析を既に実施しており、フィールドからDDTの影響を評価する研究活動に進展があった。 また2020年度は実験ラットを用いたDDTとその代謝物の多世代曝露試験を実施した。フィールドでのDDT散布状況を再現するため、低濃度かつ介餌経口曝露を行った。本年では1世代、2世代目の実験を実施し、引き続き3世代目を繁殖している。2世代目では継続してDDTの曝露を続け、予定通り、採材を完了している。2世代目維持中は毎日健康チェックや経時的な採食量、体重量の変化をモニタリングした。本研究では生体全体を対象として毒性評価を実施する予定でいるが、例えば肝臓では「DDT、その代謝物濃度の定量」「遺伝子解析」「病理学的解析」「コンピュータ断層撮影」などの複数の解析用にサンプルを保存、分析を実施した。また6,8,10,14週齢の4度のタイミングで採血実施した。血液からはDDT濃度、ホルモン濃度、血中メタボロームを定量する予定であるが、本年度は所属研究室、千葉大学でこれらマーカーの血液からの抽出、精製手法を習得した。本研究では従来、殺虫剤の毒性試験では用いられてこなかったCTを実施する。予備試験を実施し、CTにより肝臓や腎臓などの臓器の形状や性状を確認できることを立証した。本年度は多世代曝露試験から、次年度以降の研究によりDDTの健康影響を評価しうる多くのサンプル、手技を獲得した点から期待通りの研究活動であると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は多世代の動物実験により、多くのサンプルを採材した。以降は多世代曝露試験における3世代目を維持するとともに、これらのサンプルの解析を実施し、DDTが及ぼす生体影響、健康リスクを可視化する。DDTの継世代影響に関しては、近年になって曝露を中止した世代にも影響が出ることが報告されており、本研究でも一部計画を変更し、3世代目のDDT曝露を中止し、曝露を中止した際の次世代ラットにおける影響を精査することで、DDTの散布を中止した地域においても、継続してDDTが健康に影響する危険性を調査する。 既に実験が終了している動物実験に関しては、臓器中のDDT濃度を定量し、フィールド研究と比較する。肝臓などの主要な臓器は病理学的検査を実施し、CTで得られた像と比較することでCTによる毒性影響評価の有用性を再確認するとともにその感度や適応を検証する。CTからは肝臓だけでなく、定量可能な臓器を精査し、肝臓以外に関しても毒性影響が生じている臓器をモニタリングする。フィールド研究はラットの異物代謝酵素にDDTが影響している可能性を示唆した。本試験では環境を可能な限り再現した動物実験を実施しており、肝臓中の異物代謝酵素に対する影響を遺伝子発現量の観点から精査する。また本研究では経時的な採血を実施した。得られた血液からはステロイドホルモンなどのホルモン濃度、血中メタボロームの定量を実施する。DDTを散布している地域は開発途上国であり、簡便な健康影響評価を実施していくことが望まれる。そのため、本研究では遺伝解析などから得られた結果と血液分析の結果を比較、検証することで、血液を用いてより容易に健康影響評価を実施できるバイオマーカーの候補を探索する。またCTや血液から健康影響評価を実施することで同一個体を用いた経時的な試験、将来的な動物数の削減などに繋がるよう、その有用性を従来の試験と比較検証する。
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