2021 Fiscal Year Annual Research Report
適切なベクターコントロールを目指した殺虫剤の生体・生態影響評価とその手法の確立
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20J21282
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
本平 航大 北海道大学, 大学院獣医学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 多世代曝露試験 / DDT / CT解析 / 毒性影響評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は開発途上国を中心に、殺虫剤などの化学物質による環境汚染を報告すると同時に殺虫剤DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)をモデル化合物に実験動物を用いた健康影響評価を実施している。 昨年度から継続し、実験ラットを用いた3世代のDDT経口曝露試験を実施し、予定した全ての採材を完了した。特に本年はコンピュータ断層撮影(CT)による肝臓の毒性評価に関して、多くの研究結果を得た。実験ラットを用いた先行研究は少なく、従来、小動物臨床(犬・猫)で利用されていた解析手法を参照し、ラット肝臓のサイズを推定するうえで有益な手法を開発した。また単一の化学物質では、手法自体の評価が難しいと判断し、DDTに加えて、フェノバルビタール投与実験を新たに実施した。CTで分析した肝臓体積と解剖後にメスシリンダーで定量した体積間には、高い正の相関がみられ、CTにより、生前に肝臓サイズの評価ができることを明らかにした。また、対照群と比較し、DDT、フェノバルビタールの両投与群で、肝臓サイズが増加する傾向がCT、解剖後のメスシリンダーによる定量の双方から見られた。さらにCTと比較する従来型の試験として、病理学的試験と血液分析を実施した。DDT曝露群では病理学的に顕著な異常は検出されなかったが、血液分析から複数の肝機能酵素の有意な変動が観察された。 2021年度はDDT、フェノバルビタールの2つの化学物質を用いて、本研究で新たに開発をする新規手法の検証を行った。今回使用したDDT濃度は先行研究と比較しても非常に低濃度であるが、CTや血液分析からラットへの影響を検出することが可能であった。CTは実験動物の生前診断が可能であり、将来的に、動物数の削減、また同一個体を用いた継続モニタリングを可能にする。本研究により、殺虫剤の毒性影響を評価する上で、有意義な新しい手法を提示できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は実験ラットを用いたDDT曝露試験、伴う全ての採材を完了させた。解剖時には、病理検査、遺伝子発現量の定量、DDT濃度定量、化学分析用に、肝臓を含む腹腔臓器のサンプルを採材した。また先行研究に乏しいCTを用いた殺虫剤の毒性影響を実施し、実験ラットを対象としたCTによる肝臓の評価法を開発した点において、研究活動に進展があった。加えて、予定していた従来型の病理試験、血液分析やメスシリンダーによる体積測定を行い、CTの結果と比較することで、CTの有益性、手法の確実性を検証した。これらの結果はDDTのみならず、様々な有害環境汚染物質の毒性試験に応用可能であり、本研究の目的である殺虫剤の生体・生態影響評価とその手法の確立に向けて、前進が見られたと評価した。 昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響により、DDT散布地域であるアフリカ諸国でのサンプリング活動は実現できなかった。代替して、実験ラットを用いて、新たに肝臓の肥大化や薬物代謝酵素の誘導など、肝臓に対して、DDTと一部、似た反応を引き起こすことが知られているフェノバルビタールの投与を実施した。これらの結果は今後、開発した手法の有益性を検証するうえで必要であり、2021年度に全ての採材を完了し、CT解析や病理学的試験を実施した。 予定していたフィールド調査は出来なかったものの、長期間の動物実験を完了させ、必要なサンプルを全て採材した点、新規手法であるCTを用いたラットへの影響評価手法を樹立した点、また手法評価のためフェノバルビタールの投与群を新たに作り、既に実験を終えた点から最終年度に向け、十分な研究進捗があったと評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は肝臓に着目し、化学物質の生体影響の可視化に向け、研究を実施した。2022年度においても、継続して肝臓毒性を対象とし、その機序の解明を行っていく。同時にホルモン産生臓器など、影響評価の対象臓器を増やし、DDTによる生体毒性を幅広く検出する毒性試験法を検証する予定である。 新規手法の確立では、2021年度の研究からCTを用いて肝臓を評価する新たな知見を提供したものの、従来型の試験をCTなどの単一の手法で代替することは難しいという結果も得ている。同様に生前に採取可能な血液を用いた分析と組み合わせ、生前診断の精度を向上させる。そのため、2022年度では血液の分析対象を拡充し、DDTが肝臓に対して及ぼす生体影響を数値化できるバイオマーカーの提示を目指す。またフェノバルビタール投与群に対して、DDT同様の試験を実施、解析し、手法が他の化学物質に対する肝臓毒性を評価するうえでも有益であることを報告する。 また、国際的な状況を鑑みながら南アフリカ共和国などのDDT汚染地域におけるフィールドでのサンプリングを検討している。汚染地域での健康影響の解明と動物実験で探索するバイオマーカーのフィールド応用を目的に、以下の2点を実施する。1.野生げっ歯類を用いたDDT汚染状況のモニタリング、2.動物実験で得られたDDTの健康影響とそれを反映する生体指標の変動を、汚染地域に生息するげっ歯類でも比較、検討。 上記を実施し、2022年度は最終年度として、適切なベクターコントロールを目指した殺虫剤の生体・生態影響評価とその手法の確立を目指す。
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Research Products
(2 results)