2021 Fiscal Year Annual Research Report
Clp1の分子進化を模倣した人工キメラClp1の機能検証
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20J21288
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
齋藤 元文 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 分子進化 / 遺伝子重複 / RNAリン酸化酵素 Clp1 / タンパク質ドメイン / tRNAスプライシング / rRNAプロセシング |
Outline of Annual Research Achievements |
Clp1遺伝子は, 真核生物においてRNA鎖の5'末端をリン酸化し, 前駆体tRNAスプライシングやmRNA 3'末端の形成に関与する. さらに, 一部の真核生物にはClp1ファミリー遺伝子としてNol9/Grc3が存在しrRNAプロセシングに寄与しており, 生体内でも非常に重要な酵素の1つである. ここで, Clp1のリン酸化は種によって基質特異性があり, 原核生物のClp1は, 一本鎖RNAとDNAの両方をリン酸化するのに対し, 真核生物のヒトClp1は一本鎖RNAのみをリン酸化する. しかしながら, Clp1ファミリー遺伝子がどのように分子進化を遂げ, リン酸化の基質特異性に変化を与えたのか明らかになっていない. そこで本研究では, 真核生物のClp1ファミリータンパク質の機能を特徴付けるタンパク質ドメイン構造の比較解析を行うことで, リン酸化の基質認識に関わるドメイン構造領域の推定を行った. その結果, 真核生物のClp1ファミリータンパク質は, N末端やC末端側に独自のドメインを獲得して, 多様化していることが明らかとなった. また, Clp1の分子進化系統樹で初期に分岐したEuglenozoaでは, Clp1遺伝子コピー数が他の生物と比べて多く存在していることを予測した. 本研究ではこれらの遺伝子についてリン酸化の基質特異性を調べるために, EuglenozoaのTrypanosoma brucei TREU927に存在していた3つのClp1ファミリータンパク質について検証した. その結果, 3つの遺伝子のうち1つが一本鎖RNAを特異的にリン酸化することを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
原核生物のClp1は, 一本鎖RNAとDNAの両方をリン酸化するのに対し, 真核生物のヒトClp1は一本鎖RNAのみをリン酸化する. しかしながら, Clp1ファミリー遺伝子がどのように分子進化を遂げ, リン酸化の基質特異性に変化を与えたのか明らかになっていない. 情報学的解析では, Clp1ファミリー遺伝子の分子進化を解明するために, 真核生物の代表的な種の完全長ゲノム (358種)が登録されたRefSeqに対して配列類似性検索を行った. また, Clp1ファミリータンパク質が進化過程でどのようなタンパク質ドメインを獲得し, リン酸化の基質特異性に変化を与えたのか調べるために, 既知のタンパク質ドメインデータベースに対する網羅的な検索を行った. その結果, 原生生物のAlveolataや, Euglenozoaを含む広範な種に保存されていることや, 真核生物の初期型と考えられるClp1分子がEuglonozoaに存在し, 独自のタンパク質ドメインを獲得していることが示唆された. 実験学的解析では, 原核生物から真核生物への進化過程で獲得したドメインを模倣したキメラClp1によってリン酸化の基質特異性を検証する予定であったが, 真核生物の初期型と考えられるEuglonozoaのTrypanosoma brucei TREU927 Clp1ファミリータンパク質を情報学的に予測できたため, そのタンパク質について, 大腸菌における組換え体タンパク質の産生及び精製を行った. その結果, 一本鎖RNAを特異的にリン酸化することを確認した. 本研究の課題であるリン酸化の基質特異性が真核生物の初期型のClp1において既に獲得されていたことや, 進化過程におけるタンパク質ドメイン構造の獲得について示唆できたことから, 現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
情報学的解析においては, 原核生物と真核生物のClp1ファミリー遺伝子の配列を用いて精度の高い分子進化系統樹の作成及びタンパク質ドメイン構造の獲得過程を描写し, タンパク質の機能にどのような変化を与えているのか考察する. これまで, Clp1ファミリータンパク質のドメイン構造については, 機能がわかっている既知のドメインデータベースから検出を行ってきたが, この手法では新規のドメイン構造を推定することが難しい. そこで, 分子進化系統樹を基に配列をグループ化して, 複数のアミノ酸配列をアライメントしていくことによって, ドメインデータベースには登録されていない新規のタンパク質ドメイン構造の推定を行っていく. また, 一本鎖RNAとDNAの両方をリン酸化する原核生物と, 一本鎖RNAのみをリン酸化するEuglonozoaのTrypanosoma brucei TREU927 Clp1タンパク質に関して, どの配列が変化してリン酸化の基質特異性に影響しているのか, Alphafold2を使って立体構造の比較解析を実施する. 実験学的検証については, 既にリン酸化活性があると検証できたTrypanosoma brucei TREU927と比較的類似したタンパク質ドメイン構造をもつLeishmania infantumのClp1ファミリー遺伝子に関してはリン酸化活性を有しているのか検証できていない. そのため, Leishmania infantumのClp1遺伝子について, 高品質な大腸菌組換え体タンパク質の産生及び精製を行う. その後, 精製されたClp1組換え体タンパク質を使って一本鎖RNAやDNAに対するリン酸化活性を検証し, 基質特異性がタンパク質ドメイン構造の獲得によってどのように変化するのか明らかにしていく.
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Research Products
(4 results)