2020 Fiscal Year Annual Research Report
持続可能な社会を実現する生物電気化学的エネルギー変換系の基盤構築と応用展開
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20J21308
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
足立 大宜 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | バイオエレクトロカタリシス / 直接電子移動 / メディエータ電子移動 / 酸化還元酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,新規材料の導入による光応答性電極の最適化に向けて,生体触媒の電極上での反応様式について基礎的検討を行った.そこで,光応答性触媒であるチラコイド膜よりも比較的構造が単純な膜結合型酵素をモデルとし,①電極上における生体触媒の反応効率向上と,②生体触媒そのものの活性・安定性の向上を目指し,主に次の2点のアプローチで研究を遂行した. (1)直接電子移動反応の解明 電極と直接電子授受を行う「直接電子移動反応」は,外来物質を介した電子移動よりもエネルギーロスが少なく,理想的な反応様式である.本研究では,酢酸菌由来のアルデヒド脱水素酵素に注目した.本酵素の電極上での触媒反応を観測したところ,直接電子移動反応の進行を確認した.また,電極の種類や表面修飾の有無によって反応特性が大きく変化した.本結果について速度論的に解析すると,類似の酵素と同様の説明ができた.本研究成果は,生物電気化学的エネルギー変換系に関する速度論的・熱力学的理解を深めるうえで,非常に価値のある知見である.本研究成果に関して,Electrochem. Commun.誌に掲載済みである. (2)生体触媒の大量発現系構築と電気化学的評価 生物電気化学的エネルギー変換系においては,遺伝子工学的に触媒を改良する必要がある.そこで本研究では,全ゲノムが既知の酢酸菌に注目し,本微生物の代謝に大きく関与するアルコール脱水素酵素の大量発現系の構築を試みた.その結果,発現系を改良することで高活性な酵素の発現量を増加することに成功した.また,本酵素の電極上での触媒反応を観測したところ,アルデヒド脱水素酵素と同じく,直接電子移動反応の進行を確認した.本研究成果は,生物電気化学的エネルギー変換系の課題である生体触媒の活性・安定性の低さを改善するうえで,遺伝子工学的手法の有効性を示す結果である.本研究成果に関して,現在論文の投稿準備中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の最終的な目標は,生物電気化学的エネルギー変換デバイスの構築という応用的側面の強いものである.しかし,デバイスに実装する反応系だけに実験条件を制限すると,課題の本質を理解できないまま研究を進めてしまう危険がある.そこで,本年度は,本来の目的である光応答性電極の改善に向けて,あえて対象の生体触媒であるチラコイド膜とは別のモデル酵素をターゲットとして実験系を再構築し,研究を遂行した.その結果,生体触媒(酵素)反応と電極反応の共役反応である「酵素電極反応」に関する理解を深め,本反応を詳細に解析することに成功した.さらに,微生物中での生体触媒の発現系および触媒タンパク質の高次構造に改良を加えるという研究手法をモデル酵素で実現した. これらの知見および研究スキルは,本来の研究計画には具体的に含まれていなかったものであるが,生物電気化学的エネルギー変換系の実現において必要不可欠な要素であり,このような基礎的検討の先にさらなる応用的発展があると確信している.つまり,急がば回れの精神が功を奏したと言える. 以上の理由から,現在までの研究課題の進捗状況は,当初の計画以上に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は,触媒であるチラコイド膜自体を高活性化することで,さらなる高性能光応答電極の開発を試みる.そのためには,タンパク質への変異導入を効率的に行う必要がある.そこで,以下のアプローチで研究を遂行する予定である. (1)モデル酸化還元酵素であるマルチ銅オキシダーゼへの変異導入 マルチ銅オキシダーゼは酸素の4電子還元を触媒し,電極上で優れた活性を示す代表的な酵素である.また,これまでの自身の研究の成果として,本酵素が一部の構造を欠損させることで,電極触媒活性を大幅に向上させることが解明されている.そこで,チラコイド膜への効率的な変異導入の指標として,比較的構造が単純な本酵素を利用して変異導入を試みる.そして,作製した変異体の反応特性を評価し,変異導入がもたらす効果を電気化学的・分光学的に測定・解析する. (2)変異型チラコイド膜の作製および特性評価 (1)でタンパク質への変異導入に関する指針を得た後,チラコイド膜への変異導入を試みる.まず,タンパク質結晶構造データをもとに,好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elongatusで変異体チラコイド膜を複数デザインし,その大量発現系を構築する.そして,改変したチラコイド膜の反応特性を評価し,変異導入がもたらす効果を電気化学的・分光学的に測定・解析する.その後,優れた性能を示す変異体を用いて光応答性電極を作製し,その特性評価を行う. さらに,(1)で作製した変異型マルチ銅オキシダーゼを修飾した酸素還元電極と,(2)で評価および最適化した光応答性電極を用い,光エネルギー変換デバイスであるバイオ太陽電池を再構築する.そして,その出力および連続動作時の安定性を電気化学的に評価し,既存のものと比較検討を行う.
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