2020 Fiscal Year Annual Research Report
散逸が誘起する強相関量子多体現象における物性の解明
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20J21318
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 和樹 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 量子多体系 / 量子開放系 / 非平衡ダイナミクス / 非平衡定常状態 / 超流動 / フェルミ粒子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、冷却原子系における光会合と呼ばれる実験技術により、量子多体系に人工的に散逸を導入することが可能となり、このような系と環境の相互作用によって引き起こされる非平衡系特有の量子多体現象に注目が集まっている。本課題の目的は散逸の存在する開放量子多体系におけるダイナミクス、及び非平衡定常状態を解析し、そこで実現される散逸系特有の量子多体現象を記述する理論を構築することである。2020年度はまず冷却原子超流動の散逸によるクエンチダイナミクスを解析した。系の時間発展をKeldysh経路積分法を用いて定式化することにより、開放系超伝導における平均場理論を構築した。また、具体的に数値計算によるシミュレーションを行い、孤立系には存在しないメカニズムによる集団励起モードが発現することを明らかにした。さらに強い散逸は相転移を引き起こし、これはダイナミカルな領域でのみ起こる新奇な相転移であることを明らかにした。これらの結果に関しては実験的なセットアップも提案し、結果は論文としてまとめ現在国際誌で査読中である。 次に、系を散逸下で長時間発展させた後に実現される非平衡定常状態に関する研究も行った。本研究では、実験的にも重要な物理量であるカレントに着目し研究を行った。ここでは従来の開放系におけるカレントの発現機構とは異なるセットアップとして、一次元電子系に一様に散逸がかかった量子多体系を考え、カレントが生じるための最小条件を明らかにした。具体的には、系の内部対称性の破れ、もしくは散逸のミクロな相反性の破れが重要であることを指摘し、数値計算によるシミュレーションを用いて解析を行った。また、冷却原子系の実験で実現が期待される形の散逸を用いた議論や、半導体量子ビットへの応用などの議論も行った。本研究はPhysical Review Research誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要では今年度得られた二種類の成果について述べた。一つは超流動に散逸をクエンチした際の非平衡ダイナミクス、もう一つは一次元電子系の散逸によって駆動された非平衡定常状態におけるカレントの発現メカニズムに関する研究である。散逸誘起超流動ダイナミクスの研究では今年度最初に計画した通りに順調に成果が得られた。これは、申請時にPhysical Review Lettersに出版された自身の非エルミートBCS超流動に関する論文を基盤としており、さらにこれを発展させた議論を行ったものであり、より実験とも対応する理論提案となっている。この意味で、この成果は当初の計画通りの発展といえる。 一方で、散逸駆動非平衡定常状態におけるカレント発現機構に関する研究に関しては当初期待していた以上の進展が得られた。上記の散逸誘起超流動では定常状態が自明な真空となってしまうのとは対照的に、散逸に駆動された一次元電子系の定常状態は非自明な非平衡状態となる状況が存在する。今回の研究では実験的にも関連性の高い物理量であるカレントに着目し、その非平衡定常状態における発現機構に関する理論提案を行った。これは従来開放系で取り扱われてきた系の端に熱浴を接触させてカレントを引き起こす方法とは異なるものであり、系に一様に熱浴が接触した際のカレント発生を扱ったという点で、重要性及び新奇性の高い結果であると考えている。本研究は開放系の非平衡定常状態における輸送の研究の端緒となりうるものであり、今後さらに応用や理論的拡張が期待される。 以上のことから本年度は当初の計画以上に研究が進展していると結論づける。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は上記の結果を踏まえ、様々な強相関量子多体系に対して散逸が及ぼす影響を理論的に明らかにすることを目標とする。散逸が量子系に及ぼす影響は幅広く調べられてきたが、開放量子多体系には未解決問題が数多く残されている。特に強相関量子多体系はその取り扱いが難しいことと相まって開放系における理論的取り扱いの手法が確立されていないのが現状である。本年度は具体的には強相関量子多体現象を探求する舞台として、スピン系もしくは電子系などに着目し、散逸が誘起する量子臨界現象の理論的定式化を行う。特に一次元量子系は孤立系としての理論的取り扱いが十分に確立されており、これらを開放系に拡張することは非常に興味深い。これらの結果に関しては必要に応じて、計算機を用いた数値計算によるシミュレーションも行う。本研究に関しては引き続き実験的な提案を念頭において行い、京都大学の高橋教授など冷却原子系の実験家との議論も積極的に行うことを目標とする。
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Research Products
(7 results)