2020 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における結核の病因をめぐる言説の生成――体質概念や精神衛生との関連から
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20J21320
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
塩野 麻子 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 医学史 / 医療史 / 結核 / 科学言説 / 体質 / 精神衛生 / 免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近代日本における結核の病因をめぐる言説の生成およびその変容を考察するものである。本年度は以下のように研究を進めた。 ① 近代日本における結核と「体質」との関係をめぐる医学者らの議論について分析・検討した。これによって、近代期において一貫して結核の発病と個々人の「体質」との因果関係が議論の対象となっていたこと、1920年代からは「体質」論の対象が健康者にもおよぶようになったこと、体質医学が台頭した戦時期には結核対策として全人口的な「体質」改善が模索されたことについて考察した。この内容について『日本科学史学会第67回年会研究発表講演 要旨集』で報告した。 ② 戦時期の結核「集団検診」について調査およびその分析を行い、青年層の結核管理を検討した。これによって 、青年の結核発病の要因として身体的・精神的「疲労」が重視されたこと、青年の結核菌感染が国の施策でもある程度肯定的に捉えられたこと、戦時期の結核「集団検診」がゆくゆくは結核感染の有無による国民の分割およびこれにもとづく全人口的な健康管理を目指していたことについて考察した。この内容については、次年度に学会報告および論文投稿を行う。 ③ 近代日本における結核予防をめぐる医学者らの議論について、資料収集およびその分析を行った。これによって結核予防をめぐる議論が煩悶憂鬱など個々人の「心労」への注目を促し、結核予防に精神医学・精神衛生が介入する余地が示されたことが、主要な論点として浮上した。この内容の一部については、次年度に学会報告を行う。 ④ 現下のコロナ禍と感染症史研究との接続を探る試みとして批評「疫病を読みなおす視点――新型コロナウイルス禍と「戦争」の比喩」を執筆し、これが『コア・エシックス』第17巻に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は結核と「体質」論との関係の分析を進める予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う研究条件の制約により、当初の研究計画どおりに進行することが難しくなった。第一に大学医学部附属図書館等で近現代の医学系資料を調査する予定であったが、これら研究施設の利用制限によって、計画的かつ系統的な調査が困難となった。第二に、学会の中止などによって研究成果に対する専門家のフィードバックを得る機会が大きく減った。そのため当初の研究計画の順序を変更し、青年期と結核をめぐる言説の分析に注力することとした。青年層を対象とした戦時期の結核集団検診に関する研究成果を、2021年度の科学史学会で報告する予定である。 一方で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは 感染症やこの予防・治療をめぐる言説を爆発的に発生させた。こうした状況に際して、感染「第一波」を受けて発表された日本の論説を調査し、まず批評「疫病を読みなおす視点――新型コロナウイルス禍と「戦争」の比喩」にまとめた。疫病をめぐる言説の増殖にリアルタイムで対峙したことは、今後の結核史研究・感染症史研究の深化につながると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、近代期における結核の「病因」をめぐる言説の生成とその変容について「体質」論の台頭や全人口的な健康管理の模索に注目しながら分析・考察を進めた。また、現下のコロナ禍を検討の対象にくわえたことで、過去から現在まで通じる感染症をめぐる問題の構造を考察した。次年度は、前年度の成果を踏まえて以下のように研究をすすめる。 ① 戦時期の結核集団検診に関する研究について、科学史学会で報告する。学会報告でのフィードバックを吟味し、論文を執筆、投稿する。 ② 前年度十分に行うことのできなかった結核と「体質」論との関係について、研究施設等への入室を伴わない資料借用(ILLサービスの利用など)や古書店等での資料購入を行いながら、調査を継続する。 ③ 結核と精神衛生との関係をめぐる議論について、調査を開始する。分析の主な対象は『結核』(1923年創刊)『脳』(1927年創刊)など医学雑誌に掲載された論文を中心とするが、『通俗医学』(1923年創刊)ほか健康雑誌の記事や新聞記事など、一般大衆向けの論説も参照する。この内容について、次年度に学会報告を行うことを目指す。
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Research Products
(5 results)