2021 Fiscal Year Annual Research Report
根粒菌共生アイランドの動的構造の解明:宿主を騙す根粒菌の生成機構とその意義
Project/Area Number |
20J21412
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
嵐田 遥 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
Keywords | Cheating根粒菌 / ミヤコグサ / PINK4 / 制裁 / 窒素固定 |
Outline of Annual Research Achievements |
マメ科植物に共生し窒素固定を営む根粒菌において、正常な根粒形成能を保有するにも関わらず、窒素固定能を失ったCheating根粒菌が自然界にも存在することが示唆されてきた。これに対し、宿主植物もCheating根粒菌由来の根粒の発達を止める”Sanction system”により排除し、窒素固定能が高い根粒菌を飼い慣らし、土壌中に放出する仕組みが提唱されてきたが、その作用機序は不明であった。ミヤコグサ Lotus japonicus MG-20(以下:MG-20)において、感染したCheating根粒菌を死滅させる能力を有するが、その機能が欠損しCheating根粒菌に対しても成熟根粒を形成するpink4変異体 (以下:pink4)が単離された。さらに我々は、pink4に東北大学鹿島台圃場の土壌抽出液を接種して得られた根粒から、窒素固定活性が異なる4株のCheating根粒菌を単離した。本研究では、PINK4制裁機構の解明を目的として、上述のCheating根粒菌とMG-20、pink4の組み合わせを利用し、根粒の形態的観察、窒素固定活性量の測定および遺伝子発現データの比較解析を実施した。さらに電子顕微鏡を用いた根粒内部の形態的観察も実施した。PINK4制裁機構は、マメ科植物による根粒菌叢コントロールを示す新しい概念であり、微生物資材として根粒菌の利用を考える上でも考慮すべき重要課題であると言える。またPINK4遺伝子の遺伝情報整備が進めば、マーカー育種などの応用研究も期待できることから、持続可能な農業の実現に向けて、極めて重要な基盤知見として位置づけられると考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前年度計画していた遺伝子発現解析に加え、根粒内部の形態的観察も実施し、多角的な視点からPINK4制裁機構メカニズムの解明を行なった。その結果、当該研究目的の達成に向けて大きく前進することができたため、概ね順調に進展していると判断した。昨年度、根粒の形態的観察や窒素固定活性量の測定を行なったところ、ミヤコグサはPINK4遺伝子を保有することで、Cheating根粒菌との細胞内共生成立後、根粒菌の窒素固定活性レベルを感知し、その活性レベルに応じて根粒の生長を抑制することが示唆された。この結果を受け本年度は、根粒菌の窒素固定活性に応じた宿主反応を遺伝子レベルで明らかにするため、表現型解析で使用したサンプルのトランスクリプトーム解析を行なった。階層的クラスタリング解析を実施したところ、Cheating根粒菌の接種区のみで、MG-20での発現量がpink4での発現量を上回る傾向を示した遺伝子のクラスターが検出された。詳細な遺伝子解析の結果、クラスターを構成する遺伝子の多くは、エンドサイトーシス・液胞分解経路に関与することが示された。この結果から、PINK4制裁機構が上述の経路を介した溶菌反応である可能性が示唆された。さらに我々は、透過型電子顕微鏡を用いて、Cheating根粒菌を接種して得られたMG-20およびpink4根粒の内部を観察した。その結果MG-20では、膜で包含されたCheating根粒菌が液胞と融合し、溶菌している様相が見受けられた一方で、pink4ではCheating根粒菌がバクテロイド状態で生残していた。以上より、ミヤコグサはCheating根粒菌との細胞内共生成立後、その活性レベルに応じて、根粒菌を包むペリバクテロイド膜と脂質分解酵素、タンパク質分解酵素等を含む膜系成分を融合させ、酵素反応によりCheating根粒菌を溶菌させている可能性が示唆された。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、PINK4制裁機構関連遺伝子についてさらに深耕するため、M. loti MAFF303099ΔnifH 株をMG-20、pink4に接種して得られた根粒のトランスクリプトームデータを取得し、圃場から単離したCheating根粒菌株接種データとの比較解析を行う。野生型根粒菌由来のニトロゲナーゼ変異株に対する宿主反応も解析することで、PINK4制裁機構がバクテロイドに対する窒素固定モニタリングシステムであることを証明することができると考えている。さらに我々は、Gifu x pink4 の掛け合わせで得られたF2集団のバルク解析により、pink4の原因遺伝子の候補を複数同定している。これらの候補遺伝子からpink4変異の原因遺伝子を確定する目的で、レトロトランスポゾンLORE1を利用したミヤコグサタグラインのデータベースから候補遺伝子の挿入変異体を選抜し、Cheating根粒菌の接種実験を実施する。根粒の形態的観察および窒素固定活性量の測定により、pink4と同様の表現型を示すLORE1変異体を探索し、pink4原因遺伝子を特定する。上述の研究成果をまとめ、ミヤコグサが根粒菌との細胞内共生成立後も根粒菌を積極的にコントロールする、そのメカニズムと原因遺伝子についての世界初の知見として、国際学術誌へ投稿する予定である。
|
Research Products
(5 results)