2020 Fiscal Year Annual Research Report
面分光ユニットSWIMS-IFUの開発とそれを用いた近傍LIRGの観測的研究
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20J21493
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
櫛引 洸佑 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 面分光 / 近赤外線天文学 / 超精密切削加工 / 銀河形成進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
面分光は望遠鏡による天体像を分解し並べ直すことによって、二次元空間を一度の露光で分光する観測手法である。本研究ではTAO 6.5m望遠鏡の第一期近赤外線観測装置SWIMSに搭載するイメージスライサー型面分光ユニットSWIMS-IFUの開発を進めている。 本年度はまずSWIMS-IFU光学素子の製造公差と設置公差の見直しを行った。これまでの開発経験に基づいて設定された公差によって達成される光学性能の確認と感度の高い公差要素の洗い出しを行った。 光学素子の製作ではSWIMS-IFU内で望遠鏡瞳像が結像する瞳ミラーアレイが完成した。加工は特殊アルミ合金RSA6061を用いた超精密切削加工によって行われ、鏡面の平均面粗さRMS=9.4nm、平均形状誤差P-V=212nmとそれぞれ要求精度RMS<10nm、P-V<300nmを達成した。また、望遠鏡による天体像を分解するスライスミラーアレイについても、一度目の加工を行った。各平面鏡の角度精度が要求を満たさず再製作となったが、その原因が工具の角度較正手法にあることを明らかにし工程を改善することで、二度目の製作の目処を立てた。これらの超精密切削加工による開発に加え、SWIMS-IFU全体を組み上げるためのベースプレートや完成後に全体を覆うカバー、必要なレンズの製作などを進め、2021年度に実施するSWIMS-IFUの組み上げ調整に向けて準備を進行させた。 将来的なSWIMS-IFUを用いた観測研究の事前研究として、SWIMSで取得された近傍LIRG(Luminous Infrared Galaxy)の近赤外線分光データの解析を進めた。近赤外線波長域にある水素とヘリウムの輝線を用いると、その銀河の中で現在進行形で星形成活動が起こっているかどうかを5Myrほどの短い時間スケールで判別できることをシミュレーションとの比較により示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度前半は新型コロナウイルス感染症の影響によりSWIMS-IFUの光学素子開発が中断されたが、その期間に光学系組み上げ公差の見直しを行い、中断期間を有効的に活用した。また、その期間にその後の開発計画の入念な検討を行い、開発をスムーズに進めた。 光学素子開発が再開した2020年度後半からは検討した計画に基づき、SWIMS-IFUの瞳ミラーアレイとスライスミラーアレイの超精密切削加工による製作を行った。瞳ミラーアレイは無事に完成し、スライスミラーアレイについても一度目の加工が終わり、要求精度を満たすものはできなかったものの、原因の特定と改善を行い、2021年度4月には再度加工を行う。これらの超精密加工での光学素子開発に加え、これまで詳細な設計が進んでいなかったベースプレートやカバー、組み合わせレンズとその鏡筒構造などの設計を確定させ、ベースプレートとカバー、組み合わせレンズは製作を完了し、鏡筒構造は製作を進める準備を完了させた。このように2020年度はSWIMS-IFUの光学素子、構造体の多くが完成し、今後の組み上げ調整に向けて大きく進んだと言える。 2020年12月にはSWIMS-IFUのこれまでの開発状況をまとめ、国際研究会(SPIE)での発表も行った。 また、SWIMS-IFU開発と並行して、将来的なSWIMS-IFUでのサイエンスケースとなる近傍LIRGの近赤外線分光観測研究も進めた。この結果については日本天文学会2020年秋季年会で発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度はSWIMS-IFUの残りの光学素子であるスライスミラーアレイ+PO0とPO2ミラーの超精密切削加工による開発をまず進める。スライスミラーアレイ+PO0については2020年度1月-3月の一度目の加工の経験から修正を加え確立した工程によって、2021年度4月-5月にかけて加工と評価を行い完成させる。PO2ミラーについてはスライスミラーアレイ+POの加工が終了した4月中旬から加工をスタートさせる。その他のベースプレートの超精密切削加工による面出しやPO1レンズ用鏡筒構造などを含めSWIMS-IFUに必要なパーツはすべて2021年度7月までに完成させる。 2021年度7月以降はSWIMS-IFUの組み上げ調整を行う。調整は超精密加工で厚みを1ミクロン単位で調整したシムリングによって行う。組み上げた光学系は可視光源による光学的な試験で、スリットミラーアレイ上の擬似スリット像の形状、瞳ミラーアレイ上の瞳像のケラレ、SWIMS-IFUから射出される光線方向などを確認することで評価する。これらの組み上げ調整と光学的な評価を2021年度10月頃までに完了する。その後、国立天文台ハワイ観測所に輸送し、現在すばる望遠鏡で運用されているSWIMSに2022年1月に組み込み、2月に試験観測を行う。
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[Presentation] 近傍LIRGの近赤外線複数輝線から探る銀河相互作用の影響2020
Author(s)
櫛引洸佑 (東京大学), 本原顕太郎 (国立天文台, 東京大学), 小西真広, 高橋英則, 加藤夏子, 寺尾恭範, 中村洋貴, 陳諾 (東京大学), 沖田博文, 越田進太郎, 小山佑世, 田中壱 (国立天文台ハワイ観測所), 吉井譲 (東京大学, アリゾナ大学)
Organizer
日本天文学会 2020年 秋季年会
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