2020 Fiscal Year Annual Research Report
新規誘導法における患者由来iPS細胞を用いた前頭側頭型認知症の病態モデリング
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20J21586
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 月花 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | iPS細胞 / FTD / 神経細胞 / C9ORF72 / 脳領域特異的神経細胞 / Dipeptide repeat protein |
Outline of Annual Research Achievements |
前頭側頭型認知症(FTD)は前頭葉・側頭葉を特異的に障害する神経変性疾患であるが、有効な治療法は未だ存在しない。家族性FTDの原因遺伝子として最も頻度が高いC9ORF72遺伝子は、GGGGCCという6塩基の繰り返し配列により細胞死が起きるが詳細なメカニズムは不明である。ヒトiPS細胞を用いた研究はFTDの病態解明に大きく貢献することが期待されるが、FTDの病態主座である前頭葉・側頭葉をiPS細胞から特異的かつ高効率に誘導する技術が開発されていない為に、FTDの病態を正確に再現する事は不可能であった。本研究では、iPS細胞から神経幹細胞を誘導する際にWnt,FGF8シグナル濃度勾配を操作し、前頭葉・側頭葉特異的な神経細胞の作出に成功した。誘導された神経細胞は電気生理学的解析により、成熟した神経活動が検出された。本手法は、世界で初めての前頭葉・側頭葉特異的神経細胞の高効率誘導法であり、FTDに加え様々な神経・精神疾患の病態モデリングに有用な基盤技術となることが期待される(Sato et al.,Neurosci Lett, 2021)。また、C9ORF72遺伝子変異を持つ患者由来iPS細胞にて本誘導法を用いたFTDの試験管内モデルを作成し、病態解析を行った結果、患者由来神経細胞では神経突起長の減少や細胞死マーカーの発現増加、オートファジー機能不全によるP62の蓄積を検出した。また、C9ORF72遺伝子リピートによる5種類のDipeptide repeat protein(DRP)毒性による細胞死メカニズムに着目し、各々のポリペプチドの毒性を検討する手法を確立し、病態解析を始めている。今後は、C9ORF72遺伝子による詳細な細胞死メカニズムを明らかにし、当研究室で確立された既存薬によるスクリーニング系を用いて、FTDの様々な表現系をレスキューできる新規創薬ターゲットを探索する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は初年度、iPS細胞から神経幹細胞誘導過程において、Wnt,FGF8シグナルの濃度勾配を操作する事により、前頭葉・側頭葉特異的神経幹細胞誘導系を確立し、C9ORF72遺伝子変異家族性FTD患者由来iPS細胞を用いたFTDの病態解析を開始している。本研究では、C9ORF72遺伝子変異家族性FTD患者由来iPS細胞におけるC9ORF72遺伝子のイントロンにおける6塩基反復配列の異常伸長の有無をRepeat-primed PCR法によりスクリーニングし、C9ORF72遺伝子変異家族性FTD患者由来iPS細胞にて健常者由来iPS細胞では検出できなかったC9ORF72遺伝子のリピート伸張が確認された。次に、本研究ではGGGGCCという6塩基の繰り返し配列が伸長し、Dipeptide repeat protein毒性よって細胞死を引き起こすメカニズムに着目した。本研究では、毒性が最も強力であるpoly-GRと凝集数が最も多いpoly-GAに着目し、各DRPを発現するレンチウイルスベクターを作出し、健常者iPS細胞由来の前頭葉・側頭葉神経細胞に過剰発現させ、各DRP特異的発現神経細胞を作成した。さらに、FTD患者由来由来の前頭葉・側頭葉特異的発現神経細胞において、健常者由来神経細胞と比較し、神経突起長の減少や細胞死マーカーであるcleaved caspase-3の増加傾向を検出した。同時に、オートファジー機能不全によるP62オートファジー受容体タンパク質の蓄積をFTD患者由来由来、DRP過剰発現神経細胞の細胞体にて発見した。また、FTDの影響を受けない皮質介在ニューロンを誘導したところ、健常者またはFTD患者由来にてP62タンパク質の蓄積は検出できなかった。本研究は、実際の患者の病態に沿った的確なFTD病態解析が行える神経細胞モデルを確立している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、DRP特異的発現神経細胞にて、患者由来神経細胞で確認された複数のFTDの表現型を再現する。また、DRP特異的・患者由来神経細胞にて、より詳細なオートファジー関連マーカーによる免疫染色やウェスタンブロットにより、オートファジー機能低下を明らかにする。また、すでにC9ORF72遺伝子変異家族性FTD患者由来神経細胞にてDRPの検出をウェスタンブロットやドットブロットにて解析を行ったが、検出に成功していない。そこで、今後は、共免疫沈降法を用いて、P62タンパク質の蓄積にはDRPが関与していることを示唆する研究を行い、FTDの試験管内モデルを作成する。そして、既に複数の報告にて、FTDの表現型のレスキューに成功しているC9ORF72をターゲットとするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を用いて、正常な対立遺伝子の発現を維持しながら、リピート伸張による異常発現を減少させる事で表現型をレスキューさせる。さらに、健常者・FTD患者由来神経細胞とpoly-GA/GR特異的発現神経細胞に関してRNA-seqを行うことにより、網羅的に遺伝子発現解析を行うことで同定される「新たな病態関連分子」に着目し、現在までに明らかとなっていない新たなFTD病態解明へとつなげる。最後に、当研究室で確立された既存薬によるスクリーニング系(Fujimori et al., Nat Med, 2018)を用いて、FTD の様々な表現型をレスキューできる薬剤の同定など新規創薬ターゲットを探索する。
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Research Products
(2 results)