2021 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation of nematic superconductivity for BiCh2-based superconductors
Project/Area Number |
20J21627
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
星 和久 東京都立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
Keywords | 超伝導 / ビスマスカルコゲナイド系層状超伝導体 / 局所的な空間反転対称性の破れ / 常磁性対破壊効果 / 軌道対破壊効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、対象物質における局所的な空間反転対称性の破れに着目した研究である。空間反転対称性の破れとは、ある点に対してひっくり返したときに一致しないという性質である。結晶構造が空間反転対称性を保っていても、原子サイトが局所的に空間反転対称性を破っているときに様々な興味深い物性が現れることが理論的に予測されている。特に、この局所的な空間反転対称性の破れを利用すると量子コンピューターへの応用が期待されているトポロジカル超伝導が実現することも予測されているため、本研究は社会的な意義及び重要性がある。3次元の多層構造を有する結晶構造では全体で結晶構造の空間反転対称性を保っていても各層で局所的に空間反転対称性が破れているケースがあり、本研究の対象物質はこの性質を有する超伝導体である。局所的な空間反転対称性の欠如が超伝導特性に影響を及ぼしていれば高い上部臨界磁場が観測される可能性がある。そこで本年度は、本研究の対称物質であるビスマスカルコゲナイド系層状超伝導体において上部臨界磁場の測定を強磁場を用いて行った。強磁場の測定は東京大学物性研究所との共同研究として進めた。上部臨界磁場は磁場中電気抵抗測定から見積もった。その結果、ab面内の上部臨界磁場が従来の超伝導体よりもはるかに大きい値となることを発見した。上部臨界磁場は、軌道極限もしくはパウリ極限によって決定されるが、本物質系では局所的な空間反転対称性の破れによって後者のパウリ極限が増大されていると期待している。軌道極限については、対象物質の層状構造による擬2次元的な電子状態によって高められていると予想している。今後の研究によって、この可能性をさらに検証したいと考えている。なお本研究成果は、英国の学術雑誌Scientific Reportsに掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年目までの研究から対象物質であるビスマスカルコゲナイド系層状超伝導体においてab面内の上部臨界磁場が2回回転対称性を示すことを発見した。結晶構造は4回転対称性を有する正方晶であるため、この上部臨界磁場の面内異方性は結晶構造の回転対称性を破っていることになる。当初の予定では希土類のサイトを変えたものに対して同様の検証を行う予定であった。しかし、この特異な面内異方性の起源を探るために他の論文等を調べる過程で、本物質系では局所的な空間反転対称性の破れという特徴的な性質を有することが分かった。局所的な空間反転対称性の破れを有する層状超伝導体では、量子コンピューターへの応用が考えられているトポロジカル超伝導体が実現している可能性が理論的に予測されている。さらに、この局所的な空間反転対称性の欠如を有する超伝導体では高い上部臨界磁場が観測される可能性があり、実際に本物質系では高い上部臨界磁場が報告されていたがその起源については明らかになっておらず、強磁場を用いた上部臨界磁場に関する研究も行われていなかった。そこで、今年度はこの局所的な空間反転対称性の破れに着目した研究を行いたいと考え、強磁場を用いて本物質の上部臨界磁場を詳細に調べることにした。その結果、予想通り従来の超伝導体よりもはるかに高いab面内方向の上部臨界磁場を示すことを発見し、この結果は対象物質において局所的な空間反転対称性の破れが物性に影響を及ぼしている可能性を示唆している。このような超伝導体では、磁場中でエキゾチックな超伝導が実現している可能性が理論的に予測されており、このような超伝導状態が1年目までの研究から見出した上部臨界磁場の特異なab面内異方性と関係していることも考えられる。以上の理由から、当初の計画以上に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から研究対象とするビスマスカルコゲナイド系層状超伝導体においてab面内方向の高い上部臨界磁場が観測されることが分かった。これは、ビスマスとカルコゲンからなる電気伝導層において局所的に空間反転対称性が欠如することで常磁性対破壊効果が抑制されることに由来すると考えられる。今後の推進方策として、高い上部臨界磁場が観測された試料においてキャリアー量を変えた試料を用いて同様に上部臨界磁場を詳細に調べる。局所的な空間反転対称性の欠如が物性に影響を及ぼすためには、局所的な空間反転対称性が欠如した系特有の反対称スピン軌道相互作用と層間結合のエネルギースケールとの大小関係が重要である。実際に遷移金属ダイカルコゲナイド系の超伝導体では、キャリアー量をコントロールすることで層間結合の大きさを変えることができ、軌道対破壊効果が支配的な領域から常磁性対破壊効果が支配的となる領域にコントロールすることに成功している。本研究の対象物質では、酸素のサイトをフッ素で元素置換することによりキャリアー量を制御することができる。そのため、キャリアー量を制御した試料を用いて上部臨界磁場の振る舞いを詳細に調べることで、局所的な空間反転対称性の破れが物性に影響を及ぼしていることを明確にできると考えている。さらに、カルコゲンのサイトが硫黄である場合とセレンの場合とで反対称スピン軌道相互作用の大きさに違いが生じることが理論的に予測されているため、セレン量を変えていくことで上部臨界磁場にどのような違いが生じるのかを実験的に検証する予定である。またこれまでに、上部臨界磁場の測定を行ってきたすべての試料について、ホール測定及び比熱測定も行い輸送特性を明らかにする。局所的な空間反転対称性の欠如により異方的超伝導が実現している可能性もあるため、物性を詳細に明らかにすることでこの可能性を検証できると考える。
|
Research Products
(6 results)