2020 Fiscal Year Annual Research Report
フィリピンと日本の初等教育機関を通じたトランスナショナルな子どもの生活保障
Project/Area Number |
20J21668
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
本間 桃里 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 移民 / 学校福祉 / 生活保障 / 新型コロナ / フィールド調査 / フィリピン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はフィリピンと日本の学校福祉の比較を通じて日比トランスナショナルな子どもにとっての国家をこえた生活保障を構築することの主眼を得ることを目的にしている。 本年度の最も大きな実績は、180世帯以上への食糧配布をともなう聞き取りを通じて新型コロナ禍で日本に住む移民の生活がどのように変化したのかを把握できたことである(なお、訪問のさいにはソーシャルディスタンシングの確保、消毒とマスクの着用、抗原検査の利用など感染症対策をおこなった)。必要な場合には休業支援金や緊急小口資金などの申請や福祉労働局への同行などもおこなった。この調査活動を通じて、移民の視点からみた日本での生活とその保障について見識を深めることができた。新型コロナの影響は全員に同じではなく、国籍・在留資格・雇用形態・職種・ジェンダーなどによってそれぞれ異なること、制度の狭間で受けられる権利に制約がある人々がいること、「福祉」の制度があっても運用が自治体や対応する担当者によって異なること、母国にいる家族との関係や生活にも影響していることなど本研究のテーマであるトランスナショナルな子どもにとっての生活保障について、多くの知見を得ることができた。 また、休校期間や日本語教室の閉鎖期間以外では、京都市小学校でのフィールド調査も継続することができた。新型コロナ禍の学校での子どもたちの様子や、それに対応する教職員の様子を聞き取ることができた。ただし、元々の予定だった名古屋市でのフィールド調査は新型コロナの影響で実施できなかった。 以上のように、当初の計画とは異なるものの、フードバンクを含む様々な方々との連携を通じて本研究のテーマを追求すると同時に社会的な貢献を果たすことができたと評価している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの教育学研究がトランスナショナルな子どもの教育保障を中心に論じてきたことに対し、本研究では生活保障という側面から学校がどのような役割を担いうるかを検討するところに意義がある。本年度は多様な背景がある日比トランスナショナルな子どもと出会う機会に恵まれ、当初の計画と方法は異なるものの、この生活保障について重要な示唆を与えてもらうことができた。子どものミクロな生活実態を把握すると同時に、それがどのような制度や構造のもとで起こっているのかについて考察を深めることができた。得た知見の一部は京都大学のMOOC講義(Introduction to USR special session: universities response to COVID-19)や、投稿論文(審査中)を通じてまとめた。 ただし、新型コロナの影響で名古屋市でのフィールド調査は全く実施できず、京都市学校での調査も十分ではなかったため、(2)おおむね順調に進展している の区分に該当する。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に築いた移民コミュニティのネットワークを生かして、2021年度はさらに深い聞き取りを実施し、学校福祉と生活保障についての議論の厚みを増していく予定である。京都市小学校でのフィールド調査は受け入れが許可される限り、継続予定である。同時に、フィリピン初等教育機関が子どもの生活にどのように関わるよう要請されてきたのか、フィリピン政府保健省と教育省の方針の変遷に関する資料を可能な限り収集し、日本の学校福祉と比較をおこなう。2021年度内のフィリピンへの渡航は不透明であるため、フィリピンでのフィールド調査に代わって国内でできる聞き取りや資料収集を実施し、その進捗は学会報告や学術雑誌への投稿などを通じて公開していきたく思う。
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