2020 Fiscal Year Annual Research Report
極低温模擬星間塵表面に存在する超微量分子の非破壊質量分析手法の開発
Project/Area Number |
20J21681
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石橋 篤季 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 星間塵表面反応 / 微量分析 / 星間化学物理 / 質量分析 / 紫外線誘起反応 / アモルファス氷 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、実験室で再現した模擬星間塵での表面反応によって生成する微量ラジカルを検出するために、イオンピックアップ装置の開発と高感度化を行なった。プロトタイプ装置の段階では感度が足りなかったが、改良した結果、当初の2000倍の感度を達成し、ラジカルを検出するのに十分な感度を達成した。 しかしながら、高感度がゆえに真空チャンバー内の残留ガスによる影響が無視できないものとなった。特に、大きな2つの問題点を示す。1つめは模擬星間塵上での化学反応のトリガーとして紫外光源を使用する際に、紫外線が真空チャンバーの内壁に衝突することで発生する汚染物が多大なる影響を及ぼすことであった。2つ目はCs+イオン源から発生する微量のH+イオンなどの汚染物が望まない反応を起こしてしまうことであった。1つ目の問題解決のために、紫外線が基板以外に散らばらないようにコリメータを設置した。コリメータによりメインチャンバーと紫外線源を空間的に区切り、汚染物の試料への流入を最低限にした。2つ目の問題解決のために、Cs+イオン以外のイオンを除去することを目的とした質量選別機構(ウィーンフィルター)を設計、製作した。また、Cs+イオン銃およびウィーンフィルターは別のチャンバーに隔離し、ターボ分子ポンプで排気した。その結果、汚染物の影響を大幅に改善することに成功した。 上記の改良を施した装置を用いて、10 Kのアモルファス氷上に吸着させた微量のメタノールに紫外線を照射し、実際にラジカルの検出が可能かを確かめた。すると、メタノールから生成されたと思われる、CH3O(or CH2OH)やHCOなどの微量なラジカル種を検出することに成功した。加えて、それぞれのラジカル種の紫外線照射中における生成量の時間変化をリアルタイム測定することも可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画としてあげていた、装置の高感度化と汚染物質の対策を達成した。現有のプロトタイプのイオンピックアップ表面分析装置は感度が不足していたため、それを改善すべく、問題点の洗い出しおよび新規に付加する装置の設計に取り組んだ。設計ではCADやイオン軌道シミュレーションなどを使い、かなり高度な高感度分析装置を開発することに成功した。さらに、従来の当該装置の弱点であった、ピックアップ用イオンビーム中の不純物の混在を取り除く工夫を施し、現状では世界有数の装置を構築した。本装置を用いた予備実験ではアモルファス氷表面に存在する、1/1000分子層程度のラジカルの検出に成功しており、次年度に繋がる大きな進展を見せている。これまでの進展は、予想を遙かに上回るものである。
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Strategy for Future Research Activity |
① アモルファス氷上のメタノールの光反応について今まで考えられていなかった反応素過程がを示唆する結果が得られているため、これを詳細に調査する。 ② H原子反応により生成したラジカルの挙動を追うためにH原子源の改良を行う。これまで使用してきたH原子源では、H原子を生成する際に発生するコンタミネーションがチャンバー内を激しく汚染するため、最表面を高感度に検出する本装置には向かない。そのため、H原子源チャンバーと試料室チャンバーの間に数mm程度の穴の空いた隔壁を構築する。これによりコンタミネーションの試料室への流入を防ぐ。隔壁で弾かれたコンタミネーションはH原子源チャンバーに設置した真空ポンプで排気される。なお、メンテナンス性を高めるためH原子源チャンバー と試料室チャンバーはゲートバルブで隔離できるようにする。 アモルファス氷上のCOにH原子源よりHを照射し、H2COおよびCH3OHが水素原子逐次付加反応で生成する。この反応について、中間ラジカルの挙動の測定、およびこれまでの手法では検出できなかった分子種の測定を行う。
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Research Products
(5 results)