2021 Fiscal Year Annual Research Report
極低温模擬星間塵表面に存在する超微量分子の非破壊質量分析手法の開発
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20J21681
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石橋 篤季 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 星間塵表面反応 / 微量分析 / 星間化学物理 / 質量分析 / 光化学反応 / アモルファス氷 / メタノール / ギ酸メチル |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度に完成させた高感度非破壊質量分析(Cs+イオンピックアップ)装置を用いて、アモルファス氷表面に吸着したメタノール(CH3OH)からの光反応生成物とその生成過程の調査を行った。また、様々な予備実験を行うことで、それらの測定方法を確立した。 メタノールは宇宙空間に豊富に存在する分子であり、星間塵表面で効率的に生成される。そのため、星間空間で見つかっている、複雑な有機物(COMs)の起源と考えられている。その中でもギ酸メチル(MF; HCOOCH3)は宇宙空間の様々な場所に分布しているCOMsで、近年分子雲で検出されたことから、その形成過程は興味の対象とされてきた。これまで、純メタノール固体などの模擬星間塵試料への光照射実験などが多くなされてきたが、MFの効率的な生成は検出されず、天文観測と不一致な結果が得られていた。それゆえ、星間塵上でのMFの効率的な形成過程は未解明であった。そこで、我々は星間塵に豊富に存在するH2Oの効果に着目し、実際の星間塵の環境に近いと考えられる、アモルファス氷表面に吸着する微量なメタノールに対して光反応実験を行なった。このような氷上の微量メタノールから生成するCOMsはさらに微量となるため、従来の手法では検出が難しかったが、新規に開発したCs+イオンピックアップ装置によってこれが可能となった。 結果、MFの効率的な生成が検出され、天文観測と良い一致を示す結果が得られた。また、ラジカルを含む光反応物の生成の増減をリアルタイムでモニターすることにより、その形成過程が明らかになった。MFの効率的な形成にあたり重要な役割を果たすのが、アモルファス氷から光解離により生成したOHラジカルである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画として挙げていた、アモルファス氷上のメタノールの光反応について、その生成物と生成経路を特定した。本実験によりこれまで明らかにされてこなかった、ギ酸メチルの効率的な生成過程と経路が明らかになった。ギ酸メチルは、近年星形成領域などで見つかり始めたメトキシメタノールという分子を経由して、効率的に生成されることがわかり、本実験で生成したギ酸メチルとメトキシメタノールの存在比は、天文観測と非常に良い一致を示した。本結果は天文の分野に非常に重要な情報を提供したと言える。 一方、本年度計画として挙げていた、H原子源の改良と設置は行わなかった。理由として、CH3OH+OHの反応が星間塵表面において重要な役割を担うことが判明し、この反応を詳細に調べる必要が生じたためである。この反応を詳細に調べるための準備がほぼ整ったことから、研究の進捗はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
①氷上のCH3OHからのギ酸メチル生成について、鍵となるのはCH3OHとOHの反応であることが明らかになった。星間塵上の反応において、非常に重要な役割を果たすことがわかったため、この反応の詳細を研究する。具体的には、氷上に生成したOHラジカルにCH3OHを蒸着することで実験を行う。また、必要に応じて同異体を用いた実験を行い、この反応で生成するCH3OまたはCH2OHを区別し、その分岐比や反応メカニズムを調べる。同異体をチャンバー内に導入時にはHD交換が起こるため、同異体用にガス導入機構の改良と増築を行う。 ②その後、アモルファス氷上にCH3OH、NH3を吸着させた試料に対して紫外光照射実験を行う。ラジカルを含む生成した反応物をリアルタイムで観測し、その反応経路と反応素過程を特定する。また、氷上のメタノールの光反応実験の経験から、メタノールから主要で生じるラジカルの種類は判明している。そのため、氷上のNH3のみから生成するラジカル種を調査することで、より詳細な反応経路を理解することを目指す。また、 同異体を用いることでトンネル反応の寄与などを調査する。
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Research Products
(7 results)