2020 Fiscal Year Annual Research Report
軌道自由度と空間反転対称性の破れが創出する奇パリティ多極子秩序の理論
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20J21838
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
大岩 陸人 明治大学, 明治大学大学院理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 対称性適合多極子基底 / 交差応答 / 非線形伝導現象 / 奇パリティ多極子秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、電子のスピンや軌道、副格子などの複数自由度の絡み合いが創出する奇パリティ多極子秩序と交差相関物性の性質を理論的に解明することである。 上述の目的に対して本年度は、ケルディッシュ形式とチェビシェフ多項式展開を応用して応答テンソルを解析的に扱うことで、線形および非線形応答に寄与する必須の微視的パラメータを抽出する一般的手法を構築した。そして、本手法を様々な応答とモデルに応用するため、最小のモデル情報を与えたときに必須パラメータを抽出する計算コードを開発した。 本手法は磁化率や電気磁気効果等の線形応答に限らず、近年盛んに研究されている非線形の光学応答や異常ホール効果等の様々な応答現象に応用できる。電気伝導テンソルを扱う際は、緩和時間の次数によりバンド内のドルーデ項とバンド間のベリー曲率項の寄与に分離して議論できる。さらに、本手法を用いることで電子ホッピングと秩序の間の非自明な結合を微視的に解析できる。 本手法の具体的な適用例として近年注目を集めるSnTeの強誘電秩序下における非線形異常ホール効果を解析した。その結果、先行研究で重要視されている強誘電秩序に起因する最近接ホッピングの他に、無秩序下においても有限値をもつ軌道混成型次近接ホッピングの重要性を明らかにした。また、この非線形の異常ホール効果は、線形の電流誘起磁化とその結果生じる内部磁化の下での線形の異常ホール効果の2つの過程に分けて理解できることを示した。上述の結果は群論と第一原理電子状態計算に基づく解析では非自明な結果である。現在は以上の成果を論文として取り纏めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の重要な成果は、非線形を含む応答関数をモデルパラメータの多項式で表すことで、応答現象に寄与する必須の微視的パラメータを抽出する一般的手法を構築したことである。 本手法により応答の発現に不可欠なパラメータを明らかにすることで、物性応答の発現機構に対する微視的な理解が深まるだけでなく、機能性物質の効率的な設計に有用な指針が得られる。また、本手法は周期結晶系だけでなく孤立クラスター系においても適用可能であるため、無機・有機化学や人工原子系などの広い分野にインパクトを与えることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果の副産物として、あらゆる結晶空間群に対して電子の電荷・軌道・スピン・副格子自由度を全て考慮した対称性適合多極子基底を生成するアルゴリズムが得られた。そこで次年度以降は、これらを自動化する計算コードの開発を進めると共に、第一原理電子状態計算手法との融合を図る。また、得られた計算コードを応用することで、電子の複数自由度の絡み合いにより生まれる奇パリティ多極子秩序の発現機構と交差相関物性を解析する予定である。
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