2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J21879
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐久間 涼子 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 熱励起エバネッセント波 / 近接場計測 / パッシブ計測 / 分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,物質のミクロなダイナミクス(電子運動や格子振動等)により発生する熱励起エバネッセント波の分光測定を実施し,物質上の局所電磁波特性を明らかにすることを目的としている.これまで,外部光源を用いないパッシブ型の近接場分光顕微鏡を開発し,AuおよびSiC上の近接場計測を実施した.今年度は,主に分光系の改良,金属と半導体試料(SiC, GaN)上の近接場測定に取り組んだ. 分光系の改良では,従来の光学系から信号効率をより高めるため,要素数を最大限減らした新しい光学系を設計・構築をした.また,分光系の要である回折格子は,従来はアルミ合金を用いていたが,酸化による表面劣化が問題だった.そこで,銀,無酸素銅,ニッケル-リンめっきを用いて新しい回折格子を作製した.無酸素銅回折格子では,アルミ合金回折格子のおよそ6倍の信号効率を確認し,信号のSN比向上につながった. SiC, GaN上の近接場計測では,波長を選択しない0次光,特定の波長を選択できる1次光における近接場計測を行った.近接場顕微鏡で検出される信号は,物質の局所状態密度に比例することが知られている.開発した分光顕微鏡を用いて計測したSiC上の近接場信号も同様に,局所状態密度の計算値と類似したスペクトルを確認できた.また,GaNは波長14.1 μmに表面フォノンポラリトン共鳴が誘起されるため,分光顕微鏡の波長帯域(14-15 μm)では強い局在電磁場が発生していることが予想される.GaN上の減衰特性測定を行った結果,AuやSiC上と比べ10倍程度の長い減衰距離を確認できた. 物質表面のダイナミクスのパッシブな分光測定を行ったのは本研究が初である.また,分光顕微鏡のSN比が改善されたことで,近接場信号の高い再現性を実現した.得られた分光結果を用いて,今後はプローブと熱励起エバネッセント波の相互作用を明らかにする.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
構築したパッシブ型近接場分光顕微鏡を用いて,安定した近接場分光測定を実現できた.特にSN比が向上したことで,従来は難しかった近接場信号の高SN分光計測が可能になりつつある. 当初は広い波長帯域(8-16 μm)を有する新しい検出器(3色CSIP)を用いて,広帯域スペクトル計測を実現する計画だった.しかし,3色CSIPのSN比が想定より低かったため,実用化するには難しいと判断をした.そのため,従来の単色CSIP(14-15 μm)を用いた分光計測を行った.波長帯域が狭いため得られる情報は限られるが,複数の単色CSIPを用いて断続的なスペクトルを取得することで,熱励起エバネッセント波の分光分析を行うことは可能である.
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Strategy for Future Research Activity |
構築したパッシブ型近接場分光顕微鏡を用いて,SiC, GaN, AlN, およびAu上の近接場分光分析を行う.特に,これら試料上の減衰曲線を取得することで,熱励起エバネッセント波の局在特性を明らかにする.また,これまで実施した近接場分光測定から,表面フォノンポラリトン共鳴の発生周波数付近において,従来の散乱モデル(プローブとエバネッセント波の相互作用)とは大きく異なる近接場スペクトルが確認されている.今後,高SNの近接場分光計測結果から,物質の誘電率を含めた新しいパッシブ散乱モデルを確立する.また,断続的に得られたスペクトル結果から,マイクロ試料上の熱スペクトル検出等も可能にする.本分光顕微鏡を,赤外顕微分光法に並ぶナノスケール分光技術へ飛躍させる.
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