2020 Fiscal Year Annual Research Report
アーバスキュラー菌根共生の制御メカニズムは外生菌根共生の成立に関与するのか?
Project/Area Number |
20J21994
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
富永 貴哉 鳥取大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 外生菌根共生 / アーバスキュラー菌根共生 / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「アーバスキュラー菌根共生の制御メカニズムは外生菌根共生の成立に関与するのか?」は、陸上植物が約4億年前から構築するアーバスキュラー菌根 (AM) 共生と、そのあとから樹木種において獲得された外生菌根 (ECM) 共生の制御メカニズムの比較解析を行うものである。これまでに、複数の陸上植物の系統ではAM菌との共生に関わるメカニズムを様々な土壌微生物との共生関係の構築に流用されていることが明らかとなっており、植物が多様な環境に適応できた要因になったと考えられている。一方で、成長が遅く、分子生物学的な研究が発展途上にある樹木種におけるECM共生とAM共生の制御メカニズムの関連性は未だに解明されていない。そこで申請者はAM菌、ECM菌の両者と共生できるユーカリを用いて、陸上植物におけるECM共生の獲得メカニズムの解明を目的とした。 令和2年度では、ユーカリにおけるAM共生とECM共生の制御経路を比較するため、モデルAM菌であるRhizophagus irregularisと、ユーカリと高い親和性をもつコツブタケの仲間 (Pisolithus arrhizus) を同一の条件下で共培養できる実験系を確立させた。現時点で、両菌根菌を接種したユーカリ根のサンプルは回収済みであり、令和3年度では次世代シーケンサーを用いたRNA-sequencing、比較トランスクリプトーム解析を実施予定である。 また、ゲノム編集技術と毛状根形質転換法を用いてAM共生に必要な既知遺伝子をノックアウトした毛状根を作出し、ECM共生がAM共生の制御経路を利用して成立するのか明らかにする。令和2度はゲノム編集に必要なコンストラクトを作成した。並びに、得られた形質転換根におけるECM共生の表現型を継時的かつ詳細に観察するため、毛状根のin vitro培養系を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、申請時から計画していたユーカリと親和性が高いECM菌の選抜とその共生実験系を構築できた。計画当初はモデルECM菌として知られるオオキツネタケ (Laccaria bicolor) を使用していたが、ユーカリにおいてはECMに特異的な菌糸構造であるハルティヒネットの形成が確認できなかった。そこで、申請者はユーカリと共生できると報告されていたPisolithus arrhizusを鳥取大学の菌類きのこ遺伝資源研究センターから入手した。その結果、本菌を用いることでユーカリに効率的に外生菌根できることを明らかにした。この実験系を用いてRNA-seqによるトランスクリプトームを実施する予定であったが、ユーカリの根は草本性の植物より比較的硬く、根からのRNA抽出が困難であったため、その解決に時間を要した。また、ユーカリの標的遺伝子のノックアウト/ダウン個体の作成に必要な遺伝子組換え毛状根の作成と培養に関して実験系が確立でき、遺伝子コンストラクトも作成した。草本性の植物より成長が遅いユーカリを研究材料として用いていることから、申請当初から予定していた実験の多くで時間を費やした。しかし、現時点で研究計画の実施項目は概ね遂行できているため、上記の通り評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度では比較トランスクリプトーム解析用のサンプルの用意と、ゲノム編集用のコンストラクトの作成、並びに作出した変異体の表現型の観察条件を整備できた段階で終了した。令和3年度では、まず予定通り比較トランスクリプトーム解析を実施し、AM菌・ECM菌の両菌根菌と共生している個体間で発現量が変動する遺伝子の比較を行う。これにより、ユーカリの両菌根共生において機能する遺伝子群が共通しているのか、または異なるのか検証する。さらに、データ解析から抽出した遺伝子群の機能解析をもとに、発現データだけでなく共生時に変化する生理的な機能の予測も行う。さらに、令和3年度では、AM共生に必須な既知遺伝子をゲノム編集によりノックアウトし、作出したユーカリ毛状根におけるECM菌との相互作用にどのような影響が生じるのか観察する。この実験から得られるデータにより、ECM共生ではAM共生の制御メカニズが流用されているかどうか明らかになると予想される。
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