2021 Fiscal Year Annual Research Report
Cr:ZnSを用いた中赤外超短パルス光源の開発とアプリケーションの新規開拓
Project/Area Number |
20J22067
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡崎 大樹 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 中赤外 / レーザー / モード同期 / フェムト秒 |
Outline of Annual Research Achievements |
中赤外領域のフェムト秒パルスレーザーは,分子振動分光を主として様々な応用展開に有用なコヒーレント光源である.しかし,高出力な中赤外領域のフェムト秒パルス光発生は容易ではなく,大型装置を必要とし,電力-光エネルギー変換効率にも乏しく,中赤外領域における光科学の研究推進・実用化への障壁となっている. 本研究では上記の課題を解決すべく,中赤外フェムト秒固体レーザーシステムの開発を進めている.本研究では前年度に作製したCr:ZnSを用いた中赤外フェムト秒レーザー発振器・光増幅器・時間波形計測システムの最適化を行い,4電場光サイクル(30 フェムト秒)のレーザー発振とその時間強度プロファイルの直接計測に成功した.本研究で得られたCr:ZnSレーザーの時間幅30フェムト秒の発振は,可飽和吸収体を用いた当該レーザーにおいて最小の光電場サイクル数を記録している. 加えて,Cr:ZnSレーザーにおいて観測される共振器内第二高調波発生を活用することで,高周波数領域であるために外部フィードバックで抑制することが困難な,レーザー固有の緩和発振雑音を受動的に抑制し低雑音なレーザー発振を実現した. また,光共振器内に意図的に一酸化炭素ガスセルを挿入することで,一酸化炭素の共鳴周波数においてCr:ZnSレーザーが有する広帯域スペクトルに狭線幅ピークが重畳するという新奇な現象を発見した.自作の数値計算プログラムを用いたパラメータ計算や解析モデルの構築を行い,この新奇な現象に関する物理的説明を与えた. その他,当光源の分光応用,及び,光電界電子放出に関する応用について学会発表を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではCr:ZnSモード同期レーザーのさらなる高機能化のため,Cr:ZnSレーザーをベースとした光周波数コムの作成を目的とした.RF周波数標準や周波数安定化された単一縦モードレーザーである光周波数標準を参照周波数として,モード同期レーザーの位相周波数同期ループによる周波数安定化を行うのが一般的な光周波数コムの原理である. 研究過程において,従来的な周波数安定化とは別に,分子振動の共鳴周波数とリンクしたスペクトルピーク構造を,Cr:ZnSモード同期レーザーが示す広帯域スペクトルに畳み込むことに成功した.この成果は,分子振動の共鳴周波数を中赤外域の周波数標準として使用する新規な周波数安定化に基づく周波数コムの実現可能性を示唆している. 昨年度は,共振器内部で生じているスペクトルピーク形成現象の解明に時間を要し,従来手法を用いた周波数コム開発は予定よりも進まなかった.しかし,分子振動の共鳴周波数をピーク構造として重畳したレーザーは,中赤外域の新しい周波数安定化レーザーとしての可能性を秘めるのに加え,分子振動の共鳴周波数にエネルギーを局在させることで分子との反応性を向上させたレーザーとして新規振動分光法の開拓に向けた展開も期待できるため,注力すべき対象と考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は引き続き,分子の指紋を重畳した中赤外Cr:ZnSモード同期レーザーの開発およびその詳細な動作解析を行う.特に,エンジニアリングのゴールとなる,如何にピーク構造を増強するか,ピークが形成される周波数の安定度,周波数精度に関する調査を行う.分子振動の共鳴吸収の大きさとスペクトルピークとの関係性を考察すべく,長さの異なる一酸化炭素ガスセルや他の気相分子種を用いて,モード同期レーザーに生じるスペクトル変調の形状,スペクトル変調の大きさの比較を行う.また,モード同期に関する自作のシミュレーションプログラムを用いて実験との比較を行い,共振器内部で生じている物理現象の解明を行う.ピーク構造を重畳したレーザーを軸とした中赤外域の新しい周波数安定化レーザーとしての可能性の模索や,分子振動の共鳴周波数にエネルギーを局在させることで分子との反応性を向上させたレーザーとして新規な振動分光への応用展開を今後の研究推進方針とする.
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Research Products
(14 results)