2020 Fiscal Year Annual Research Report
電子構造とフェルミレベル制御による高次高調波発生の解明と制御
Project/Area Number |
20J22225
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
西留 比呂幸 東京都立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 高次高調波発生 / ディラック材料 / カーボンナノチューブ / グラフェン |
Outline of Annual Research Achievements |
固体における高次高調波発生(HHG)は、物質の電子構造を調査する新規手法として注目されている。本研究は、HHGと電子構造およびフェルミレベルとの関係解明を行い、HHGによる電子構造解明に必須となる知見を獲得することを目指す。このために、①バンド分散が鋭く変化する金属型単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と単層グラフェン、②広いバンドギャップを持つ遷移金属ダイカルコゲナイド等のナノ材料に対し、電界効果デバイス構造を用いることでフェルミレベルを制御しつつ、HHG測定を行う。R2年度は特に、①1次元(1D)材料の金属型SWCNTと2D材料の単層グラフェンに対して調査を行った。これらは共に、線形分散と特異点のディラック点からなるディラック電子構造を持つ。しかし、金属型SWCNTはファンホーベ構造も持ち、その違いからHHGの発生機構の理解が可能と予想された。グラフェンはフェルミレベル制御によりHHGが増大すると理論的に予想されており、フェルミレベルとHHGの関係を実験的に解き明かすことが求められていた。 金属型SWCNTは、電解質ゲートでキャリア制御し、HHGを測定した。この結果、フェルミレベルの変化に伴い、5次高調波強度は1桁以上減少し、3次高調波はわずかに減少するという次数で異なる振る舞いを観測した。グラフェンでは、固体ゲート・電解質ゲートの両面でキャリア制御し、測定を行った。この結果、3次、5次、7次高調波すべてがフェルミレベルの位置に依存せず、強度がほぼ一定という全く異なる振る舞いであることを見出した。これは、他グループの結果と異なっているが、我々は異なるゲート法も含め、再現実験を何度行っても同様な結果であった。 以上により、グラフェンと金属型SWCNTのキャリア注入の結果の比較から、HHGには非線形分極の影響が大きいことが示唆されており、現在、論文をまとめているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、固体におけるHHGと電子構造およびフェルミレベルとの関係解明を行い、HHG制御に向けた物質・デバイス設計指針を得ることを目標とする。これを実現するためにR2年度は、当初の計画通り、バンド構造が急峻に変化する1D材料の金属型SWCNTと2D材料の単層グラフェンに対し、電界効果デバイス構造によるフェルミレベル制御を行い、HHGの変化を調べた。この結果、計画段階および、他の理論予想で期待されていた様な、フェルミレベル制御によるHHGの強度の向上は確認することができなかった。一方、その比較から、1Dに由来するファンホーベ構造による非線形分極のHHGへの寄与が大きいことが分かった。グラフェンにおいて、フェルミレベル制御に対しHHG強度がほぼ変化しない背景を、理論的に理解することは重要な課題として残されている。他のグループの結果とは異なっているが、バックゲート・電解質ゲートでも同様の振る舞いであり、幾度となく再現実験を行っても同様の振る舞いであるため、理論的に理解しつつ論文としてまとめて報告する必要性がある状況である。グラフェン系において予想外の結果が出たものの、当初計画していた調査は実行できたため、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
R2年度に観測された①の金属型SWCNTと単層グラフェンから観測された振る舞いの背景は充分に理解できていない。今後はこの背景を調べ、これらの材料におけるフェルミレベルの影響を解明し、数値計算などでその背景を理解することを目指す。加えて、当初の計画に従い②広いバンドギャップエネルギーを持つ遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)材料におけるHHGとフェルミレベルの関係を明らかにする研究を進める。このTMDC材料は、MX2(M = Mo, W, X = S, Se, Te)の構造を取り、MoS2やWS2などは従来の研究で用いていた単層カーボンナノチューブよりも大きなバンドギャップを持つ。先行研究より、大きなバンドギャップを持つ材料からはフェルミレベル制御により、多くの次数でHHGが増大することが期待されている。そのため、この検証を実験的に行う。加えて、TMDCは空間反転対称性を破る系であり、①の物質では観測することができなかった偶数次のHHGの観測も可能となる。偶数次の次数の強度とフェルミレベルとの関係を今年度明らかにする。
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