2020 Fiscal Year Annual Research Report
精密宇宙論観測による原始ブラックホール探査と極小スケール原始ゆらぎの徹底解明
Project/Area Number |
20J22260
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
阿部 克哉 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 観測的宇宙論 / 宇宙マイクロは背景放射 / 原始ゆらぎ / スニヤエフ・ゼルドビッチ効果 / 原始ブラックホール / ultracompact minihalo |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの観測的宇宙論における原始ゆらぎの探査において、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の温度ゆらぎの観測が非常に強力であり、およそ 1Mpc より大きいスケールの原始ゆらぎの大きさは精度よく得られている。一方で、それよりも小さいスケール、特に極小スケールに関しては、宇宙の進化に伴う散逸や非線形効果の影響を強く受けるため調査が困難であった。しかしながら、原始ブラックホール(PBH)などの極小スケールの原始ゆらぎの大きさをトレースする天体を調査することで、極小スケールの原始ゆらぎの大きさに迫れることが期待されている。 本年度は、PBHへの降着ガスにより生じる運動的スニヤエフ・ゼルドビッチ(SZ)効果に関して、名古屋大学在籍の田代寛之氏とともに研究を行った。当初の目的はPBHの運動的SZ効果によるCMB観測量への影響と実際の観測データの比較から、PBHの存在量へ制限を設けることであった。しかしながらこの効果からは、PBHのガス降着によるCMBの光学的厚みから得られる現存の制限よりも強い制限が得られないことがわかり、現在は他の制限手法を模索中である。 また、極小スケールの原始ゆらぎの大きさをトレースするものとして、研究対象を原始ブラックホールだけでなく、ultracompact minihaloや重力波などに広げた研究も行った。代表的なものは、名古屋大学在籍の古郡国彦氏、田中俊行氏、橋本大輝氏、田代寛之氏、長谷川賢二氏の5人と行ったultracompact minihaloに関する研究である。この研究では、近々本格的な運用が始まるSquare Kilometers Arrays、通称SKAによる21cm線の観測から1kpcから10kpc程度の原始ゆらぎの大きさに対して制限を得ることが可能であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は予定通り、PBHへの降着ガスにより生じる運動的スニヤエフ・ゼルドビッチ(SZ)効果に関して、名古屋大学在籍の田代寛之氏とともに研究を行った。当初の目的はPBHの運動的SZ効果によるCMB観測量への影響と実際の観測データの比較から、PBHの存在量へ制限を設けることであった。しかしながらこの効果からは、PBHのガス降着によるCMBの光学的厚みから得られる現存の制限よりも強い制限が得られないことがわかった。 本年度は、原始ブラックホールに縛られず別のアプローチにて原始ゆらぎに迫る研究が捗った年であった。既述のultracompact minihaloに着目した研究だけでなく、重力波を用いた研究も行った。 これは、2021年1月にNorth American Nanohertz Observatory for Gravitational Waves通称NANOGravにより発表された、12.5年の運用から得られた最新のデータを用いた研究である。 さらに、研究課題とは外れるが、名古屋大学在籍の田代寛之氏と、初代星の超新星爆発によるCMB偏光への影響についても調査を行った。これにより、Planck衛星の観測による最新のデータと将来の宇宙の電離度に関する観測から、現在理論的な予言がついていない初代星の質量分布に関して制限が得られる可能性があることがわかった。この内容は論文にまとめArXivに掲載、さらに査読付き学術雑誌、Physical Review Dに投稿し現在レフェリーからの返答を待っている状況である。 本年度唯一の問題点は、原始ブラックホールまわりのガス降着を解く、数値シミュレーションコードの開発が遅れていることである。これに関しては、引き続き同研究室のスタッフと議論を続け、なるべく早期の開発完了を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究により、原始ブラックホールのみならず、様々な対象を研究することでも、本研究の目的である原始ゆらぎに迫れることがわかった。今後の研究としては、当初の予定であった原始ブラックホールを通じた原始ゆらぎの調査を続けつつ、別角度からの調査も視野に入れて研究を進めていきたい。 唯一の問題点は、原始ブラックホールまわりのガス降着を解く、数値シミュレーションコードの開発が遅れていることである。これに関しては、引き続き同研究室のスタッフと議論を続け、なるべく早期の開発完了を目指したい。
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