2020 Fiscal Year Annual Research Report
江戸期音楽界における吉原遊廓―音楽的実態及びその独自性を江戸文学の記述より探る―
Project/Area Number |
20J22465
|
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
青木 慧 東京藝術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
Keywords | 吉原遊廓 / 江戸文学 / 音楽文化 / 音楽学 / 国文学 / 近世音楽 / 遊里 / 近世史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、前年度の修士論文執筆を通して浮き彫りとなった自身の研究の不足点から、研究対象の拡大を検討する事に比重を置く一年となった。具体的な2020年度の活動は、①自身の専門的知識の拡大②新たに加える研究対象の検討である。 ①に関しては、自身の研究対象とする江戸文学に対する知見を深めるため、国文学領域の先行研究の網羅的調査を行い、自身の専門分野である音楽学領域との交差点の模索を行った。その結果、江戸文学作者と歌舞伎芸能との密接な繋がりを確認し、江戸期吉原遊廓の音楽をより多角的に考察するため、「歌舞伎音楽」を新たなキーワードとして研究対象に追加することとした。 ②に関しては、先述した先行研究の網羅的調査を受けて視野を拡大し、研究課題達成のために解明すべき点の再整理を行った。そこで、「吉原の音楽的実態」と「吉原の独自性」を考察するためには、まず、吉原遊廓という場が、江戸期音楽界においてどのような機能をもち、江戸全体の音楽の流通/伝播過程において、どのような位置付けであったのかを解明する必要があると考えた。つまり、吉原を彩った音楽文化が、どのようなルートを経て構築されていったかということである。これまで自身の研究対象とし確かな史料的有用性を証明した、『史林残花』『南花余芳』をはじめとする「洒落本」(その他戯作)と、新たにアプローチする『北女閭起原』をはじめとする「随筆」という質の異なる2種類の文学、そして歌舞伎関連史料を用い、吉原内の音楽事情だけではなく外部の芸能との関連性も同時に考慮に入れながら、吉原遊廓の音楽的実態及びその独自性、そして江戸の音楽界全体を再考証していく。 2020年度の学会発表・論文発表の業績としては、修士論文発表(口頭発表)2件、研究発表(口頭発表)1件、論文投稿1件が挙げられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は①自身の専門知識の拡大②新たに加える研究対象の検討を中心に研究活動を行った。①の活動である関連先行研究の網羅的調査を受けた②を通して、新たに、歌舞伎音楽を研究対象として加えることとした。これは、吉原遊廓の音楽的実態をより多角的に捉えるための視野の拡大である。 先行研究の網羅的調査からは、歌舞伎関係者と江戸文学作者は深い交流をもち、また、歌舞伎と文学はそれぞれ「リアルタイム性のある大きな宣伝力」をもっていることが明らかとなった。よって、洒落本(その他戯作)と随筆という2種類の質の頃なる文学や、必要に応じた歌舞伎関連史料を対象に、当時吉原と並ぶ最大の娯楽であった歌舞伎という芸能を考慮に入れながら、吉原遊廓への人や音楽情報の行き来に視点を当てることで、年中行事を含む吉原の音楽の流行をはじめとした江戸全体の音楽の流通/伝播過程がどのようなものであったのかを明らかにできるのではないかと考えた。この視点が、研究計画における「吉原の外部の人々による音楽の「捉え方」を把握する」こと、そして、「江戸期の音楽界で、吉原の音楽がどのような独自性をもっていたのか 」を考察することに繋がると考える。具体的には、①文学関係者(戯作/随筆作者)と、②歌舞伎関係者(歌舞伎役者/歌舞伎・歌舞伎音楽作者)、そして③鑑賞者(歌舞伎鑑賞客/吉原登楼客)という、三側面「人々」の動きを分析軸として設定し、研究の視点として新に加えることとした。
|
Strategy for Future Research Activity |
目下のところ、諸随筆作品から音楽情報を抽出する作業と、これまで(卒業論文・修士論文)に調査を行った洒落本における研究結果との照らし合わせ作業に取り掛かっており、継続する。2021年度の活動は、【1】追加調査資料の検討(歌舞伎関係資料、図像資料)と分析、【2】随筆からの音楽情報の抽出作業の完了、【3】分析軸(①文学関係者②歌舞伎関係者③鑑賞者、吉原遊廓-文学界-歌舞伎界といった暫定的に設定している構図)の再検討(【2】の進捗に応じ、暫定的に設定している分析軸を再検討する)、以上を目指している。 また、「文学界と音楽学界をどのように結びつけるか」「文学の書き手(「誰が」執筆したのか)への着目」「吉原と幕府の政策、そしてその政策下での諸芸能への影響(この点を考慮に入れることで、研究対象期間の若干の変動の可能性有)」「卒業論文・修士論文で用いた時代区分(分析において独自に使用した区分法)の再考」「修士論文で明らかとなった吉原における具体的な流行種目調査の活用」「自身の研究の独自性でもある「遊女」という視点の再考」等の点に考慮しながら、調査・分析を進める。
|