2020 Fiscal Year Annual Research Report
ラジカル反応を基盤とした高酸化度ジテルペンの収束的合成戦略
Project/Area Number |
20J22479
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
今村 祐亮 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
Keywords | 全合成 / タキソール / ラジカル反応 / 有機化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は昨年度、分子間および分子内でのラジカル反応を用いた1-ヒドロキシタキシニンの全合成を、従来よりも短い総26工程にて達成した。その結果、高い反応性と官能基許容性を兼ね備えるラジカル活性種を用いる反応が、効率的な分子変換法として有用であることを実証した。そこで、本年度は本手法の堅牢性をさらに示すべく、より複雑で重要な生物活性を有する天然物であるタキソールの全合成研究に着手した。1-ヒドロキシタキシニンの全合成に用いた戦略を最大限活用するため、その合成中間体から分岐してタキソールを全合成する計画を立案した。複雑な分子骨格上への官能基の導入は困難を極めたが、本年度は立体障害の大きな四置換炭素の隣接位への酸素官能基導入などの重要な化学変換の条件を見出し、タキソールの全合成に向けた有用な中間体の合成を達成した。まず、他の変換を検討していた際の副反応として起こったアセチル基の転位反応を有効に活用し、複数存在するヒドロキシ基に位置選択的に保護基を導入した。また、共役型のエノンから非共役型のエノンへの異性化が、完全な位置選択性で達成できることを見出し、酸素官能基導入への足掛かりとなる官能基の変換を行った。続く、酸化反応によって所望の立体化学での酸素官能基の導入に成功した。これらの化学変換は、分子間および分子内でのラジカル反応を基盤としたタキソールの全合成研究を遂行するための重要な知見である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は立体障害の大きなネオペンチル位への酸素官能基導入などの重要な化学変換の条件を見出した。当該の酸素官能基導入をタキサン骨格の構築後に行う合成例は数が少なく、本反応条件は従来にはない手法でタキサン骨格に酸素官能基を導入できる点で非常に重要な知見である。本変換以外にも、アセチル基の転位反応や、エノンのオレフィンの異性化反応などの種々の変換の条件を見出し、タキソールの全合成に向けた有用な中間体の合成を達成した。本成果は、ラジカル反応を基盤としたタキソールの全合成の達成に大きく寄与すると考えられ、期待通りの研究成果が得られたと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
タキソールの全合成を完遂する。現在までに合成した中間体はタキソールの合成に向けて必要な官能基をすべて備えた有用な中間体である。今後は、オキセタン環構造の構築、保護基の除去、尾部アシル基の導入を経てタキソールを全合成し、ラジカル反応を基盤とした合成戦略の有用性を実証する。
|