2020 Fiscal Year Annual Research Report
近代文章の形成に与えた西欧語翻訳の影響―文構造の変化について―
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20J22595
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
仲村 怜 明治大学, 明治大学大学院 国際日本学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 近代語 / コーパス / 翻訳小説 / 言語変化 / 文法 / 文体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、これまで指摘されてきた、近代の西洋語翻訳による書き言葉への影響のうち、特に文構造に関連する点について、実証的に明らかにすることである。実証的な研究を行うため、原文と訳文を対応付けたパラレルコーパスを構築することで、従来は大規模な調査が困難であった対照分析を可能にする。 今年度はまず、調査・分析を行う準備を整えるため、コーパスの構築を集中的に行った。構築作業として、明治18年から5年毎に区切り、各期に5作品、大正末期までの8期分で計40作品の原文・訳文それぞれのテキストデータを用意した。その後、原文・訳文の文単位での対応付けを行い、パラレルコーパスの形にする一方で、それぞれに形態素解析を行い、品詞情報などのタグ付けを行った。それらをリレーショナルデータベースの形で結び付けることで、語単位からの検索と文脈の表示を同時に行うことが可能なデータベースを構築した。その成果については、人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2020」でポスター発表を行い、コーパスの評価と改善のためのフィードバックを得た。 コーパスを用いた研究活動としては、翻訳の影響で近代以降に質・量ともに増加したとされる無情物主語の受身文、他動詞文について分析を進めた。受身文については、日本語学会2020春季大会において、他動詞文については、日本近代語研究会2020年度秋季大会において発表を行い、構築したデータをもとに行った分析についてフィードバックを得た。これらについては、さらに分析を進め、2021年度に論文化を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、初年度である本年は主要なデータベースとなるパラレルコーパスの構築に注力した。資料の選定及び電子テキスト化を行った後、各作品について原文・訳文のアライメント処理及びアノテーション作業を施した。これにより、収録を予定していた作品の9割ほどのデータが揃ったため、今後の分析のための準備が概ね整った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、昨年度を通して構築したコーパスを主要なデータベースとして用いつつ、国立国語研究所の『日本語歴史コーパス』やその他データ化されていない資料も対象に含め、翻訳文の成立過程と非翻訳文の比較を行いながら、実際の調査・分析を進める。また、文法項目ごとに分析をまとめ、論文化を行うことで、博士論文の骨子となる論の構築を行う。 具体的には、まず文末部分に着目し、翻訳が行われる際に原文の文末に当たる箇所がどのように訳文中に反映されるかを調査する。まず、当時まだ確立していなかった句読法について、西洋諸言語のpunctuationをどのように翻訳していたのかについて分析を行う。他にも、文末部分の様々な時制や体などがどのように翻訳されるのか、また、その訳法が近代を通してどのような変遷を辿り、収束していくのか等、訳文中での文末の形成について分析を進める。その後、非翻訳文のデータとの比較を行い、近代語の特に書き言葉の文構造が成立する過程で、西洋諸言語の翻訳がどのような位置づけにあるのかを明らかにする。 続いて、主語あるいは文頭等に着目し、上記の文末部分と同様の手順を踏んで調査・分析を進める。特に、人称詞や代名詞のほか、主語として使用される名詞の種類の拡張や、主述の対応する頻度、文章中に主語が表示される割合等について、計量的な調査を行い、それぞれの機能的な側面からの分析を綿密に行う。 また、当初の研究計画にはなかった部分であるが、より詳細に翻訳文の変化を分析するケーススタディを行う。近代に間隔をあけて複数回にわたって翻訳された作品について、同じ部分、同じ項目がどのように訳出され、通時的にどう変化していくのかを明らかにすることで、原文を揃えた状態で訳文の言語の通時的な分析が可能となる。
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