2021 Fiscal Year Annual Research Report
活動依存的かつ出力特異的な新規細胞標識法の確立と適切な社会性行動の脳内機構解明
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20J22665
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 圭一郎 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 扁桃体海馬野 / 内側視索前野 / scRNA-seq / 神経回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで雄マウスの養育行動に重要な脳領域である内側視索前野 (MPOA) に出力する扁桃体海馬野(AHi)ニューロンには、養育/攻撃の相反する行動にて活性化される複数のニューロン集団が存在することを見出してきた。2021年度は昨年度に確立した「活動依存的かつ出力特異性な新規細胞標識法」にて標識された、養育時/攻撃時に活性化するMPOA投射型AHiニューロンについてscRNA-seqによる解析を行った。 新規細胞標識法を利用して養育時/攻撃時に活性化していた各ニューロン集団 (以下、養育ニューロン、攻撃ニューロンと表記) を標識したマウスより、AHiを含む脳スライスを作製し、ガラス電極を用いて標識単一細胞を回収した。得られた単一細胞より、Smart-seq2法にてcDNAライブラリーを調整し、シーケンスを行った。得られた遺伝子発現プロファイルを比較したところ、養育ニューロンでは攻撃ニューロンと比較して、395個の遺伝子の発現レベルが高く、755個の遺伝子の発現レベルが低いことが示された。このうち、養育ニューロンで発現レベルが高かったPlcg1、Htr7と、攻撃ニューロンで発現レベルが高かったSstr3、Vipr1に着目した。Plcg1は受容体型チロシンキナーゼの下流シグナル分子、Htr7、Sstr3、Vipr1はGタンパク質共役型受容体であり、これらに対する薬剤を作用させることで各ニューロン集団を特異的に操作できる可能性が考えられる。 また、in situ hybridization法によるこれらmRNAの可視化を行ったところ、scRNA-seqの結果と一致した各ニューロン集団特異的な発現パターンが認められた。以上より、養育/攻撃ニューロンは異なる遺伝子発現パターンを有していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規細胞標識法にて新たに見つかったニューロン集団の特性をRNA-seqにて“分子レベルでプロファイリング”するために、Smart-seq2法(Picelli et al., 2014)にてcDNAライブラリーの調整を行った。単一細胞由来のcDNAは収量のバラツキが大きく、多くのケースで単一細胞回収時のRNA分解が見られた。そこで、単一細胞回収時の条件や用いる酵素の量、PCRのサイクル数などを調整することで、安定したcDNA合成を行うことができた。 得られた遺伝子発現プロファイルを比較したところ、各ニューロン集団を特異的に操作できる可能性がある遺伝子を見出すことができた。これら遺伝子に対する薬剤をマウスに投与することで、神経細胞レベル、および行動レベルでの変化が見られるかを観察する必要がある。 以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、Plcg1、Htr7、Sstr3、Vipr1の作動薬・拮抗薬をマウスに投与し、各ニューロン集団を特異的に操作することで養育/攻撃が変化するか否かを検討中である。 また、養育時と攻撃時に活性化したニューロン集団では遺伝子発現パターンが異なっていた。神経細胞の電気生理学的特性はイオンチャネルの組成や発現量に依存することから、2つのニューロン集団間で電気生理学的特性も異なっていることが予想される。そこで、新規細胞標識法にて標識された神経細胞からホールセルパッチクランプ記録を行い、電気生理学的特性を解析する。
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