2021 Fiscal Year Annual Research Report
記憶固定化を可能にする複数の神経細胞の膜電位動態の解明
Project/Area Number |
20J22732
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野口 朝子 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 海馬 / 記憶固定化 / リップル波 / 膜電位 / 抑制 |
Outline of Annual Research Achievements |
行動中に覚えた記憶はその後休んでいる間に固定化される。この記憶固定化時に、記憶を司る海馬ではリップル波(100-250 Hzの脳波)が発生し、同時に行動時に発火した一部の神経細胞が再び同じ順序で発火すること(発火シークエンス)が知られている。こうした発火シークエンスは、記憶固定化に重要な現象であると考えられてきたが、発火のタイミングや順序が制御される仕組みは不明である。本研究では神経細胞が発火に至るまでの過程である発火閾値下の膜電位に着目し、機序の解明を目指している。 リップル波に伴う海馬細胞の順序立った発火とその過程を捉えるには、行動後のマウスの海馬よりリップル波と複数の海馬細胞の膜電位を記録する必要がある。これを可能にする実験系を自ら構築し、リップル波と最大3錐体細胞の同時膜電位記録に成功した。解析の結果、リップル波の発生直前に神経細胞が一過的に抑制されていることを見出し、この抑制が大きいほど単一神経細胞の発火のタイミングが遅いことを示した。そして、複数の神経細胞間においても、リップル波直前の抑制の大きさの順に発火しやすいことが明らかとなった。さらにこの抑制の大きさは細胞ごとにもリップル波ごとにも多様であったことから、多様な発火シークエンスのパターンに寄与すると考えられる。これらの結果からリップル波直前の抑制性細胞の活動がリップル波中の錐体細胞の発火タイミングを制御していることが示唆されたため、抑制性細胞の一種であるパルバルブミン陽性抑制性細胞の活動を光遺伝学的に操作した。その結果、同抑制性細胞の活動をリップル波直前に抑制するとリップル波中の錐体細胞の発火タイミングが早まることが示唆された。以上の結果より、リップル波直前の抑制性細胞の活動がリップル波発生時の錐体細胞の発火のタイミングや順序を制御し、その時空間的な多様性が豊富な発火シークエンスを生み出す可能性を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、記憶固定化に重要な現象であるとされる、リップル波発生時における海馬細胞の順序立った発火の機序解明を目指している。特に、発火に至るまでの過程である発火閾値下の膜電位に着目することを特色とする。目的にアプローチするための中核となる実験手法は、リップル波を含む脳波と複数の海馬細胞からの膜電位同時記録である。これまでに、この記録系を自ら確立し、記録に成功した。得られたデータの解析を行った結果、リップル波に伴う海馬細胞の発火タイミングの制御には、リップル波直前における各細胞の抑制が寄与していることを見出した。さらに、Cl-イオンチャネルの薬理学的阻害によりこの抑制が抑制性入力由来であること、およびパルバルブミン陽性抑制性細胞の光遺伝学的操作によりその寄与を示した。これらの成果は初年度および2年目に予定していた実験、解析に加えて、3年目に予定していたリップル波発生前における特徴的な膜電位形成に必要な因子の同定までを行ったことにより得られたものである。そのため、当初の計画以上に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、海馬錐体細胞はリップル波直前に一過的な抑制性入力を受けていることを発見し、この抑制がリップル波発生時における発火のタイミングや複数の神経細胞間の発火の順序を制御することを示した。さらに抑制の時空間的な多様性が多様な発火シークエンスのパターンに寄与することを提案した。今後は、生後発達期マウスの海馬細胞からの膜電位記録に挑戦し、リップル波直前の抑制の出現の過程を明らかにする。その背景として、抑制性細胞の成熟は生後1-2週間、リップル波の成熟は生後2-3週間に起きることが知られている。しかし、この時期のリップル波発生前後に海馬錐体細胞が抑制性細胞から受ける制御については不明な点が多い。その原因の1つとして、そもそも発達期マウスにおいて海馬錐体細胞の膜電位記録を行った例がないことが挙げられる。既に予備実験により記録が可能であることは検証済みであるため、この実験技術を生かしてリップル波発生前後に海馬錐体細胞が受ける抑制のダイナミクスを解明する。
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Research Products
(8 results)