2021 Fiscal Year Annual Research Report
ポルフィリン骨格を基盤としたπ電子系イオンペアの創製
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20J22745
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
田中 宏樹 立命館大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 荷電π電子系 / ポルフィリンイオン / イオンペア / 電子移動 / ラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
多様な周辺修飾が可能なポルフィリノイドに対し、電荷を完全に補償しない金属イオンの導入は、荷電π電子系の重要な形成戦略の一つである。そこで本年度では、おもに以下の4点に関する研究を進めた。 ①ポルフィリンのメゾ位に組み込みんだ酸ユニットの脱プロトン化により負電荷を持たせ、拡張されたπ平面に電荷を非局在化させることにより安定化したπ電子系アニオンをイオンペア集合体に導入した。単結晶に対する固体吸収分光測定によって、吸収スペクトルと規則配列構造の相関を検証した。同電荷種間において、相対配置に依存した励起子相互作用により、吸収スペクトルが変化することを示した。また、理論計算により、イオン間にはたらく相互作用の詳細を示した。さらに、光誘起電子移動反応により生成したラジカル種を固体状態で観測することに成功した(Chem. Sci. 2021)。 ②ポルフィリン骨格を基盤としたイオンペアを合成し、適切な置換基導入による機能発現および集合化を検討した。溶液中における積層イオンペアの形成が、環電流効果と対イオンの近接に起因した1H NMR化学シフトから示唆された。さらに、イオンペアの電子状態を制御し、光や溶媒などの外部刺激による電子移動が示唆された(論文投稿準備中)。 ③レセプターアニオン会合体をポルフィリンAu(III)錯体の対アニオンとして導入したイオンペア集合体の形成に成功した(Chem. Eur. J. 2021, 論文投稿中)。 ④オキサポルフィリンを基盤としたイオンペア集合体に、はたらく分子間相互作用を検証した。ペンタシアノシクロペンタジエニドとのイオンペアは、ポルフィリンカチオンの中心金属を変化させることで、異なるパッキング構造を示した。FMO-PIEDA計算を実施し、分子間相互作用の特徴からパッキング構造の違いを検証した(Bull. Chem. Soc. Jpn. 2022)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画のうち、新たにイオンペア集合体の構成ユニットとして機能しうるポルフィリンイオンの開発と物性評価を中心に進めた。研究実績にも示したように、π電子系イオンペアを電荷種分離型に配列することに成功し、固体吸収分光測定では同種電荷種の相対配置によって励起子相互作用が生じることを明らかにし、さらに過渡吸収分光からアニオンからカチオンへの光誘起電子移動を示した。本年度は、外部刺激に応答して電子移動可能なイオンペアを開発し、従来にはない新たな電子・光物性を明らかにした点で、おおむね順調に進展していると判断した。 また、ポルフィリンAu(III)錯体の対アニオンとして、レセプター-アニオン会合体を導入することに成功している。アニオンレセプターの骨格を修飾することにより多様なイオンペア集合体の形成を可能にし、単結晶X線構造解析によりその構造を明らかにした。その構造をもとに、Hirshfeld表面解析やエネルギー分割解析を実施し、パッキング形態の制御につながる知見が得られた。 さらに、オキサポルフィリンカチオンをπ電子系イオンペア集合体に組み込むことに成功し、静電力と分散力をおもな相互作用としてはたらいていることを明らかにした。相反するイオン種の組み合わせによって多様なイオンペアおよび集合体やマテリアルが形成されうることから、新たな構成ユニットをイオンペア集合体に導入できた点は研究を展開していく上で重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
ポルフィリンのAu(III)錯体やメゾヒドロキシポルフィリンの脱プロトン体を導入したイオンペアの適切な置換基導入による機能発現および集合化の検討を行う。溶液中における積層イオンペアの形成が、環電流効果と対イオンの近接に起因した1H NMR化学シフトから示唆され、適切な周辺修飾により積層構造の安定性が向上した。その結果をふまえ、ポルフィリンPt(II)アニオンとポルフィリンAu(III)カチオンのイオンペアを新たに合成し、積層構造を形成した際にPt(II)とAu(III)が近づくことに起因した重原子効果による機能発現をめざす。さらに、ポルフィリンイオンの電子状態を制御し、光や溶媒などの外部刺激による電子移動を明らかにした。電子スピン共鳴や紫外可視吸収分光、過渡吸収測定によって、電子移動後に生じるラジカル種の安定性や生成・減衰過程を評価する。 また、ポルフィリンAu(III)錯体の対アニオンとして、レセプター-アニオン会合体を導入することが可能である。アニオン会合体をポルフィリンAu(III)錯体を近接させることを目的とし、π電子系を拡張したレセプターの導入を行う。電子不足なπ電子系を近づけることによるレセプターの電子・光物性の変調が期待でき、紫外吸収分光や蛍光高度計を利用した検証を行う。 さらに、機能性材料の骨格として最適な電子状態をもつイオンペアを集合体へ展開するために、長鎖アルコキシ鎖などの分子間相互作用を発現しうる置換基を導入する。次元制御性の付与が期待できるため、示差走査熱量測定や偏光顕微鏡により中間相の発現を確認し、SPring-8(BL40B2)における放射光XRD測定によって、集合化形態を検証する。
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