2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J22776
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山下 尚人 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
Keywords | スピントロニクス / スピントランジスタ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はスピントランジスタの応用に向け、シリコンへのスピン注入において好適な電極材料および作製方法を明らかにすることである。これに向けて本年度は(1)低仕事関数強磁性電極の開発(2)熱処理による信号増大(3)シリコンスピン素子の熱耐性向上の3点の研究を行った。(1)については、共蒸着法による成膜が必要だが、蒸着装置のトラブルや再現性の問題が相次ぐ状況の中、他の装置を代用おいび蒸着ソース保存方法変更等、臨機応変に対応することで低仕事関数強磁性材料を開発に成功した。室温にて強磁性を示すことを実験的に確認したうえ、従来の強磁性電極と比較してシリコンとの界面抵抗を2桁低減することを発見した。現在論文投稿準備中である。(2)については、年度初の実験計画にはなかったもののスピン注入効率の増大できる可能性があると考え、実験を行った。その結果、300℃1時間の真空熱処理によりスピン注入効率が増大し、信号強度を従来比2倍に増加させることに成功した。この成果を論文にて発表した。(3)真空熱処理の実験をする中でシリコンスピン素子の熱耐性という新たな課題を発見した。素子の故障メカニズムを電子顕微鏡および元素分析により調査したところ、強磁性電極からおよそ7マイクロメートル離れた電極に保護膜として用いられる金原子の拡散が確認された。電極の熱耐性を向上することにより素子の熱処理耐性を向上できたため、本内容を論文としてまとめて投稿中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究実施計画に示した(1)低仕事関数強磁性電極の開発に成功した。共蒸着により強磁性材料を成膜して真空中で光電効果を用いて仕事関数を測定したところ、狙い通りの低仕事関数化ができていることが確認でき、半導体シリコンとの界面抵抗の激減に成功している。一方、スピンバルブ構造を作製してスピン偏極率を測定するには至っていないため、スピン偏極率の定量的な評価には至っていない。シリコンとの低抵抗界面を介したスピン注入や異常ホール効果等、他の実験方法を駆使することによりスピン偏極率を定量評価できる可能性がある検討する必要がある。 それに加え、シリコンへのスピン注入に好適な電極作製方法として(2)真空中300℃の熱処理の方法を提案した。シリコンスピントランジスタの最重要課題である磁気抵抗比の問題に対し、簡潔に回避できる可能性を示され、AIP Advances誌にて論文発表し、Editor's Pickに選出された。また、(3)今回の実験を通じて新たな問題として浮き上がったシリコンスピン素子の熱耐性の課題を解決する方法を提案した。最先端技術である透過型電子顕微鏡および元素マッピングといったナノスケール構造分析手法を駆使することにより素子の故障メカニズムを解明した。その結果、7マイクロメートルという長距離を元素が拡散し、強磁性電極を破壊していることが明らかとなった。これらの内容を論文にまとめ、現在Scientific Reports誌へ投稿中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
低抵抗の強磁性電極を介してシリコンへのスピン注入ができることを実証する必要がある。また、スピンバルブの作製にも引き続き取り組み、室温でのスピン偏極率の測定およびシリコンへの注入の実証に向けて実験を行う。これまで斜め方向からの共蒸着により厚膜を用いた微細加工が困難であるとわかっているため、より薄い膜厚でデバイスの作製に取り組む。熱処理によるスピン偏極率の向上は新たに開発した低仕事関数材料においても有効である可能性があるため、結晶構造の解析等により測定を行う。
|