2021 Fiscal Year Annual Research Report
不飽和結合への電子移動に基づく有機ホウ素化合物の新規合成法の開発
Project/Area Number |
20J22814
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 郁也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 1,2-ジメタル化 / アルキン / 金属ナトリウム / 有機ホウ素 / 有機マグネシウム / 有機アルミニウム / 有機亜鉛 / 脱芳香族化 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 金属ナトリウムを用いたアルキンの1,2-ジマグネシウム化および1,2-ジアルミニウム化反応の開発: 申請者は、前年度に発生法を確立した1,2-ジマグネシオエテンおよび1,2-ジアルミノエテン類の単離と構造決定を試みた。検討の結果、両化学種の単離ならびに単結晶作製に成功し、X線結晶構造解析によりそれらの構造を明らかにした。さらに、発生させた1,2-ジマグネシオエテンに対して塩化亜鉛を作用させることにより、1,2-ジ亜鉛化エテンが生じることを見いだした。生じた有機亜鉛種は、パラジウム触媒を用いたハロゲン化アリールとのカップリング反応における求核剤として利用可能であった。本手法を用いることで、従来法では困難であった、テトラアリールエチレン類の位置選択的かつ立体選択的な合成を達成した。 (2) 単体アルカリ金属を用いたプロパルギルエーテル類の還元的リチオ化反応の開発: 申請者は、ヨウ化リチウム共存下、プロパルギルエーテルに対して金属ナトリウムを作用させると、強固な炭素-酸素結合の還元的切断を伴いながら、対応するアレニルリチウム種が生じることを見いだした。生じるアレニルリチウム種をトリメトキシボランにより捕捉することで、従来法では合成困難であった置換パターンを有するアレニルボロン酸エステルが高収率で得られた。 (3) 金属ナトリウムを用いたベンゾトリフルオリド類の脱フッ素ジボリル化反応の開発: 申請者は、ビスピナコラートジボロン共存下、ベンゾトリフルオリド類に対し金属ナトリウムを作用させると、還元的脱フッ素ジボリル化が進行することを見いだした。DFT計算を用いた反応機構解析により、α,α-ジボリルベンジルアニオン中間体の生成過程において、フッ化物イオンの脱離を伴うボリル基の1,2-転位が進行することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度にアルキンからの発生法を確立した不安定化学種である、1,2-ジマグネシオエテンおよび1,2-ジアルミノエテンの、単離ならびに構造決定に取り組んだ。錯体化学の専門家と密に連携を取ることで、両化学種の単離および単結晶作製に成功し、X線結晶構造解析によりそれらの構造を明らかにした。この成果を国内学会において発表し、優秀講演賞を受賞した。さらに、1,2-ジマグネシオエテンに対し塩化亜鉛を作用させることで、対応する1,2-ジ亜鉛化エテンが発生することを見いだした。生じる有機亜鉛種は、対応する有機マグネシウム種よりも温和な反応性を有することから、適用可能な求電子剤の多様性はますます高まると期待される。実際に、発生させた1,2-ジ亜鉛化エテンを、パラジウム触媒存在下でヨウ化アリールと反応させることで、根岸カップリングが進行し、対応するテトラアリールエチレンが位置・立体選択的に生成することを予備的に見いだしている。 また、前年度までに見いだした金属ナトリウムとアルコキシホウ素求電子剤の組み合わせを利用することで、プロパルギルエーテル、ベンゾトリフルオリド、および多環芳香族炭化水素の還元的ボリル化法の開発にも取り組んだ。とりわけ前者二つの反応においては、不飽和結合(π結合)への電子移動を起点とした、強固なσ結合の還元的切断を達成しており、本研究課題で実現できる反応形式の多様性は高まったといえる。 以上のことから、当初の計画から若干の変更が必要になっている部分もあるが、大枠では研究課題である不飽和結合への電子移動に基づく有機ホウ素化合物の新規合成法の開発は進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず前年度および今年度に取り組んだ、アルキンの1,2-ジマグネシウム化および1,2-ジアルミニウム化反応の研究成果を、学術誌に論文として投稿する。 さらに、今年度に見いだしたアルキンの還元的1,2-亜鉛化を利用した、四置換アルケン類の位置・立体選択的合成法の開発に取り組む。具体的には、アルキンから発生させた1,2-ジ亜鉛化エテンを求核剤とし、ハロゲン化アリールまたはハロゲン化ビニルを求電子剤とする、パラジウム触媒を用いた新規炭素ー炭素結合形成反応の開発を試みる。 また本手法で発生させられるジ亜鉛種を共通中間体とし、抗悪性腫瘍剤の一つであるタモキシフェン類縁体の系統的合成を検討する。
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Research Products
(9 results)