2020 Fiscal Year Annual Research Report
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20J22827
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
風間 勇助 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 文化権 / 芸術活動 / 評価 / 社会包摂 / 刑事司法 / 矯正施設 / 更生 / 修復的司法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、「刑事施設における芸術活動」が、文化政策・文化経営学、美学・芸術学、刑事政策・犯罪社会学といった関連する学問分野の観点からどのような課題を捉えることができるのかについて、理論研究を行いながら具体的な研究対象となる事例研究に向けた資料収集を行うこととしており、概ね計画通り進めることができた。 文化政策・刑事政策双方から捉えられる課題は、刑事施設の被収容者の文化的な権利はどこまで保障しうるのかと(文化的権利)、刑事施設における芸術活動がどのような効果をもたらすのか(評価)という2つの観点である。2020年度は、特に評価の問題に取り組む中で、複数の英語圏のレビュー論文をもとに論点を整理し、英国の代表的な2つの事例について関連文献をもとに紹介しながら、日本の状況もふまえてその評価の枠組みを暫定的に示すことができた。特に、文化政策からのアプローチでは、受刑者の肯定的な変化のみならず、刑事施設職員や施設周辺の住民、他の関係者等への(肯定的な)影響など、より広範な波及効果に着目しており、そうした多角的な評価の重要性を指摘した。 矯正図書館の文献データベースから網羅的に収集した資料によって、日本の矯正施設においても何らかの文化的活動やアートセラピー、表現教育などを通じて、被収容者らが芸術にアクセスする機会をもっていることは明らかとなったが、その評価に関わる研究は刑事政策や犯罪心理学的なアプローチから、被収容者の更生につながりうる変化にのみ着目されている。受刑者らの芸術活動の社会的影響を捉えるには、その芸術活動が広く一般に開かれていなければならないが、刑務所職員へのインタビュー調査において、諸外国の事例のように刑事施設での芸術活動を一般公開することが困難な状況も窺えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
矯正図書館の文献資料や、諸外国のデータベースからも網羅的に文献資料を収集し、目を通すことができた。また、その研究成果について、日本文化政策学会、日本アートマネジメント学会、日本犯罪社会学会、国際文化政策学会ICCPR(International Conference on Cultural Policy Research)において発表することができたことから、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は刑事施設における芸術活動の評価の問題に取り組んだが、次年度は刑事施設の被収容者らの文化的権利はどの程度保障し得るのかという権利の問題について検討する。さまざまな自由が制約される被収容者らの文化的な権利はどのように捉え得るのか、文化政策・刑事政策双方の先行研究をふまえた法制度上の研究と同時に、実態として現状はどの程度保障することができているのか、元受刑者へのインタビュー調査を通じて明らかにしてく。 また、文化的な権利として保障していくうえで、被収容者の芸術活動をどのように社会に開くことが可能なのかという課題もみえている。その大きなヒントとなる概念として、修復的司法という考え方がある。修復的司法とは、何らかの犯罪行為を行った加害者、それによる影響を受けた被害者及びコミュニティとが対話を通して関係の修復や和解の道を探る実践や理念を指す。この修復的司法の実践において、芸術活動を刑事施設の内外をつなぐ対話の糸口とするような事例が国内外で確認された。 2020年度は、コロナ禍に見舞われるなかでフィールドワークやインタビュー調査、海外調査については計画通りには進んでいない。今後は、コロナ禍の状況を見ながら可能な方法でのインタビュー調査を行い、被収容者の芸術活動に関わる職員や外部指導者等の関係者がどのように捉え実践しているのか、そしてその活動を一般に開くことにはどのような障壁があるのかについて具体に明らかにしていく。そうした質的調査を通して、刑事施設における芸術活動の美的経験に関する理論的考察も進めたい。
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