2020 Fiscal Year Annual Research Report
Human Perception and Behavior in Multiple Spatial Scales
Project/Area Number |
20J22897
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大伏 仙泰 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | インタラクション / マルチスケール / 人間拡張 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、身体機能の理解に基づく視覚・運動的介入を通じ、顕微鏡下のミクロスケールと通常のマクロスケールの差異に依存しない操作インターフェイスの実現を目的とする研究である。当初の計画ではスケールが異なる環境におけるインタラクションの実現を目標に掲げ、得られた成果は指先操作型の顕微鏡としての応用にとどまらず、より広範囲なユーザーインターフェイスの実現を目指していた。しかし、コロナ禍の影響で継続的な新規ハードウェア開発が困難となったため、今年度は主に既存の指先顕微鏡の改良に優先的に取り組んだ。今年度の研究内容は、指先大の小型顕微鏡を身体の巧みな動作に基づき利用するために必要な基礎的知見と応用例の提案の2つに大別される。前者は指先顕微鏡の改良を目的とする、通常の光学顕微鏡を用いたヒトの指先の細かな振る舞いを調べる取り組みであり、操作可能な拡大率の範囲や考慮するべき観察条件について探索的調査を行った。また、後者は指先顕微鏡の利用時に生じる指先の細かな動作を活用した、高い拡大倍率と広い視野を両立するための観察手法に関する取り組みである。既存のハードウェアを基盤に開発したプロトタイプは、マウス用の光学式センサで計測した移動量に基づき、画像の合成を行う。これにより、指先の移動操作に基づく高倍率と広視野を両立した観察手法が実現された。このように実施内容は計画と異なる部分が存在するものの、実験装置の開発に一定の進展が見られるなど、計画全体を俯瞰すると一定の進捗があったものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はコロナ禍の影響で継続的な新規開発が困難となったため、研究計画を一部変更し、既存の指先顕微鏡の改良に関する課題遂行に取り組んだ。顕微鏡によって拡大された環境において、ヒトが達成可能な身体動作や身体的・物理的な制約条件について実験的に明らかにするため、以下2つの方針で課題遂行に取り組んだ。第1の方針は指先の微細な移動を支援する上で必要となる課題の予備的調査であった。これまで実現している指先大の小型顕微鏡が抱える課題のひとつに、その拡大率が利用者の視点から設計されていない点が挙げられる。観察対象に応じた拡大率の切り替えは顕微鏡観察の基本であることに加え、顕微鏡の利用者が指先等で操作可能な拡大倍率を明らかにすることは、拡大倍率等の設計指針の構築に有益であると考えられる。小型顕微鏡の動きを計測する際、精度や信頼性の観点から、本研究では倒立型顕微鏡と工業用カメラを採用し、これらを組み合わせることで、ステージに搭載された物体表面上の高い空間分解能と広視野での位置追跡が実現された。第2の方針は指先大の超小型顕微鏡を用いた新たなアプリケーションの開発であった。広い視野を維持したまま拡大率を維持するために、一般的に複数の画像から画像を合成する手法が用いられる。一方、画像によって広視野像を合成するためには特徴量の抽出等の画像処理を要するため、計算量の観点からは実時間での実現が困難という問題がある。そこで、指先の移動に応じた広視野像の合成を実時間で実現するため、マウス用の位置センサとして用いられる光学式変位センサを既存の指先顕微鏡と組み合わせたハードウェアを実装し、指先による小型顕微鏡の移動と連動した顕微鏡画像の合成を試みた。製作した装置を実験で評価した結果、指先の移動に基づく画像の合成が簡易的な仕組みではあるが実現できることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は今年度構築した平面上の位置計測を高速・高精度な計測を可能とする倒立型顕微鏡を用い、引き続き心理物理実験を通じてヒトの巧緻さを明らかにすることを目指す。指先等による微細な移動に関する知見は器用さが要求されるタスクのトレーニングへの応用が見込まれるため、基礎的な知見の獲得に加え、構築した計測システムを入力インターフェイスして用いたアプリケーションの開発も行う。 ヒトの巧緻さを微視的に計測する上で扱う必要のある課題として、振戦が挙げられる。一般に、手指を用いた細かな動きには微小な振動が伴う。この振動は不随意的なものであるため、ユーザーが自分で動かしているという感覚を指す行為主体感を損なわないためには、不随意的な振動に対し適切な介入手段を導入する必要がある。一般的に振戦の抑制には機械的な手段が用いられる。これに対し、本研究では、振戦に特有の周波数成分およびランダムウォーク的振る舞いに着目し、周波数フィルタを用いた動きの平滑化や複数の手指の動きの平均化による解決を試みる。 現状のプロトタイプを用いる場合、経験的に振戦は指先が押さえつける圧力が一定程度に到達すると顕著になることや、潤滑油を用い摩擦面の粘性を変化させることで抑制できる等の知見が得られている。今後、小型顕微鏡の指先での操作を目指す際はこうした要素も加味しながら設計論の解明に取り組む予定である。
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