2020 Fiscal Year Annual Research Report
酸化物イオンの固相レドックスとナトリウムイオン電池への応用
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20J23089
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
土本 晃久 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | ナトリウムイオン電池 / 正極材料 / 電子状態解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
持続可能な社会の実現に向け、再生可能エネルギーの有効利用に資する大規模蓄電技術の発展が急務である。現在実用されているリチウムイオン電池については、希少金属の枯渇が懸念されるため、汎用元素を利用した新規二次電池の開発が必要である。ナトリウムイオン電池は、元素戦略の観点から大型化に適するが、リチウムイオン電池と比較すると、電力貯蔵能力は低い傾向にある。電力貯蔵能力の低さがコスト面の優位を相殺しており、ナトリウムイオン電池の実用化に向けては電力貯蔵能力を高める必要である。 電池の電力貯蔵能力を大きく左右する正極材料については、材料の一部である遷移金属の電子のみが電力貯蔵に用いられ、これが電力貯蔵能力を高めるにあたってボトルネックとなっていた。それに対し近年、正極材料に多く含まれる酸素の電子を併せて用いることで、電力貯蔵能力を高める取り組みが行われてきた。しかし、飛躍的に電力貯蔵能力を高めることができる一方で、蓄えた電力の一部が熱エネルギーとして失われることが課題である。我々はこれまでに、電極材料Na2Mn3O7がエネルギー損失なく酸素の電子を電力貯蔵用いることができることを見出しており、本年度は、エネルギー損失がない原因について、X線分光測定や磁気測定を用いた多角的な検討を行った。 X線分光測定によって電極中酸素原子の電子状態を観察したところ、酸素の電子が可逆的に電子を受け取り、放出し、電力貯蔵に寄与していることが分かった。さらに、磁気測定を行い、酸素原子の電子が放出された状態、つまりリガンドホールとして安定に存在することが確認された。従来の正極材料では、酸素原子の電子が放出されると、構造が不安定となり酸素原子同士が結合を作り、これがエネルギー損失の原因となっていたと考えられる。酸素の電子を、エネルギー損失なく利用するメカニズムについて、初めて実験的に明らかにすることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究のテーマは、酸化物イオンの固相レドックスを用いた、分極、つまりエネルギー損失のない高容量ナトリウムイオン電池正極材料の設計指針の確立である。当該年度の計画は、酸化物イオンの固相レドックスによる高容量化が発現する材料群についての合成、基礎的な電気化学特性の評価の後、構造変化の点から分極の発生要因について解明を試みることであった。当該年度の研究実績としては、各種正極材料の合成と電気化学特性評価を実施しており、特に正極材料Na2Mn3O7に関しては、次年度に予定していたX線分光と磁気測定を用いた多角的検討を行った。その結果として、分極のない酸化物イオンのレドックスには、酸素原子が二量体を形成せず、リガンドホールとして安定化することが重要であることを見出した。遷移金属骨格の安定性にのみ着目したこれまでの研究では、分極の発生機構については部分的な説明に留まっていたが、本研究では、より直接的な酸素の電子状態から分極の発生機構を説明することに成功した。この成果は研究目標の達成に直結するものであり、計画以上の進展があったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、初年度にNa2Mn3O7を用いた実験から得られた知見を基に酸素の結合状態に主に注目し、他の遷移金属種や構造について検討を行う。実験内容としては、初年度に合成、及び基本的な電気化学特性の評価を行った固相レドックスによる容量増加が観察される正極活物質群(酸素レドックス正極材料)に関して、X線分光、及び第一原理計算を用いることで、実験と理論の両面から材料の電子状態について明らかにする。具体的には、コインセルを用いた定電流充放電試験による、充放電状態調整を行った後、これらの試料を用いて、放射光施設において、酸素K吸収端に対して軟X線吸収分光測定を行う。さらに、吸収の増減が見られたエネルギーを入射光として用いた軟X線発光分光測定を行う。非占有軌道を観察する吸収分光と、占有軌道を観察する発光分光を組み合わせることで、フェルミ準位付近の電子状態について網羅的に調査する。これらの結果から、酸素の電子状態変化について調べ、初年度に行った構造変化の調査との対応についても確認する。 さらに、VASPを用いた第一原理計算からも、電子状態変化の理論的解析を行う。まずは構造最適化から充放電中の構造変化を計算し、実験との対応を確認する。特に、酸素が酸化された際の結合状態として、二両体を形成する場合、リガンドホールとして安定化する場合のそれぞれの構造の安定性について検証を行う。これらの最適化構造に基づき、状態密度の計算を行う。酸素レドックス正極材料では、遷移金属原子のd軌道と弱く混成した酸素2p軌道の存在が高容量発現の鍵となっていることが知られており、これについても注意深く検討する。以上の実験、及び理論計算から、Na2Mn3O7以外の材料系においても、酸素の電子状態に注目することで分極の発生機構を明らかにし、分極のない高エネルギー密度正極材料の設計指針の確立を目指す。
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Research Products
(2 results)